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親が亡くなって相続人を確かめたら、何十年も連絡を取っていない兄がいた。どこに住んでいるのか、生きているのかも分からない。
遺産分割は相続人全員でしなければ無効です。1人欠けるだけで、預金の解約も、実家の売却も、相続登記も止まります。
このとき使うのが、家庭裁判所に選んでもらう不在者財産管理人です。行方不明の人の代わりに遺産分割に加わります。申立ての収入印紙は800円ですが、別に予納金が要ることがあります。
探し方から、管理人の選任、失踪宣告との違い、2023年に始まった新しい制度まで順に整理します。
結論|先に3つ

1. まず戸籍の附票で住所を追う
住所が分かれば「不在者」ではありません。手紙を出し、それでも応じなければ調停で呼び出せます。
2. 見つからなければ不在者財産管理人
家庭裁判所が選んだ管理人が、許可を得て遺産分割に加わります。
3. 7年以上生死不明なら失踪宣告も選べる
失踪宣告を受けると、法律上は死亡したものとみなされます。
戸籍の追跡から任せる
行方不明の相続人がいると、戸籍を何代も遡り、附票で住所を追う作業が続きます。相続人の確定から専門家にまとめて相談できます。
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何が止まるか

相続人の1人と連絡が取れないと、次の手続きが進みません。
| 手続き | 止まる理由 |
|---|---|
| 遺産分割協議 | 全員の合意が要る |
| 預金の解約・名義変更 | 全員の署名と実印が要る |
| 実家の売却 | 共有者全員の同意が要る |
| 相続登記(分割による) | 協議書に全員の実印が要る |
| 相続税の特例の適用 | 分割が決まらないと使えない |
相続人全員の合意という条件は、どの手続きにもついて回ります。 1人分の空白が、家族全体の手続きを止めます。
例外は、法定相続分どおりの共有で相続登記をすることです。これは相続人の1人からでも申請できます。ただし共有のままでは売れないので、問題を先送りしているだけです。
まず探す

家庭裁判所に申し立てる前に、探した記録が要ります。申立書には「不在の事実を証する資料」を付けるからです。
探す手順はこうです。
- 被相続人の戸籍から、その相続人の本籍地を確かめる
- 本籍地の市区町村で戸籍の附票を取る。住所の移り変わりが記録されている
- 附票の最後の住所で住民票を取る
- その住所に手紙を出す(配達記録が残る方法で)
- 返ってきたら、返送された封筒を保管する
戸籍の附票は、相続人であれば正当な理由があるとして請求できます。住民票の除票と附票の除票は、2019年6月から保存期間が150年に延びたので、以前より古い住所まで追えるようになりました。
住所が分かって手紙が届いたなら、その人は法律上の「不在者」ではありません。 返事がないだけなら、遺産分割調停を申し立てて裁判所から呼び出してもらいます。不在者財産管理人を使うのは、住所そのものが分からないときです。
不在者財産管理人とは

裁判所の手続案内は、不在者を「従来の住所又は居所を去り、容易に戻る見込みのない者」と説明しています。
この人の財産を守るために家庭裁判所が選ぶのが不在者財産管理人です(民法第25条)。
| 内容 | |
|---|---|
| 選ぶ人 | 家庭裁判所 |
| 申立てできる人 | 配偶者、相続人にあたる者、債権者などの利害関係人、検察官 |
| 申立先 | 不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所 |
| 管理人の仕事 | 不在者の財産の管理と保存 |
| 遺産分割や売却 | 家庭裁判所の権限外行為許可が要る |
管理人は、不在者の利益を守る立場です。 申立てをした家族の味方ではありません。ここを誤解していると、遺産分割の段階で話が食い違います。
管理人の候補者を申立書に書くことはできますが、遺産分割の当事者である相続人は利害が対立するため、選ばれにくいのが実情です。弁護士や司法書士が選ばれることが多くなります。
申立ての費用と書類

裁判所の手続案内に載っている費用です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 収入印紙 | 800円 |
| 連絡用の郵便切手 | 裁判所ごとに異なる |
| 予納金 | 必要な場合は相当額 |
問題は予納金です。 管理人の報酬や管理の費用は、本来は不在者の財産から払います。ところが不在者に財産がなければ払えません。そのため裁判所は、管理費用が不足しそうなときに申立人へ予納金を求めます。
裁判所は予納金の額を公表していません。実務では20万円から100万円程度と言われることが多く、不在者の財産の内容と、管理人に頼む仕事の量で決まります。 遺産分割が終われば不在者にも取り分が入るので、そこから報酬が払われ、予納金の一部が戻ることもあります。
必要書類は次のとおりです。
- 不在者の戸籍謄本と戸籍の附票
- 管理人候補者の住民票
- 不在の事実を証する資料
- 不在者の財産に関する資料(登記事項証明書、預貯金の残高証明書など)
- 申立人の利害関係を証する資料(相続関係が分かる戸籍など)
不在者の取り分の根拠を用意する
遺産分割では、不在者の法定相続分を確保できるかが許可の分かれ目になります。実家を誰かが取るなら、その評価額が代償金の基準になります。査定は無料です。
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遺産分割には権限外行為許可が要る

管理人が当然にできるのは、財産を守ること(保存)と、性質を変えない範囲で使うことまでです。遺産分割や不動産の売却はその範囲を超えるので、家庭裁判所の権限外行為許可が別に要ります(民法第28条)。
流れはこうなります。
- 不在者財産管理人の選任を申し立てる
- 家庭裁判所が管理人を選ぶ
- 管理人と他の相続人で遺産分割の内容を話し合う
- 管理人が権限外行為許可を申し立てる
- 家庭裁判所が内容を確認し、許可を出す
- 管理人が協議書に署名・押印する
裁判所の手続案内も、管理人は「家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で、不在者に代わって、遺産分割、不動産の売却等を行う」と説明しています。
許可が出るかどうかは、分割の内容で決まります。 不在者に不利な内容では許可が出ません。
不在者の取り分はどう扱うか

裁判所が見るのは、不在者の利益が守られているかです。原則として、不在者の法定相続分を確保する内容でなければ許可されにくくなります。
ただし実家1軒が遺産の大半という場合、不在者に家の持分を渡すと、また共有が残ってしまいます。そこで実務では次の2つの形が使われます。
| 法定相続分を渡す | 帰来時弁済型 | |
|---|---|---|
| 不在者が受け取るもの | 法定相続分の財産 | いまは受け取らない |
| 誰が実家を取るか | 話し合いで決める | 特定の相続人が取る |
| 不在者が戻ったら | — | 取得した相続人が代償金を払う |
| 管理人の仕事 | 受け取った財産の管理が続く | 早く終わる |
| 予納金への影響 | 管理が長引けば増える | 少なく済むことがある |
帰来時弁済型は、不在者が戻ってきたときに、実家を取得した相続人が不在者の取り分に相当する代償金を払うと約束する分け方です。 管理人がお金を預かり続ける必要がないので、手続きが早く終わります。
ただし、家庭裁判所が必ず認めるわけではありません。 代償金を払う側に支払能力があるか、不在者が戻る見込みがどの程度かを見て判断されます。
失踪宣告との違い

7年以上生死が分からない場合は、失踪宣告という方法もあります(民法第30条)。
| 不在者財産管理人 | 失踪宣告 | |
|---|---|---|
| 前提 | 住所が分からない | 生死が7年間分からない |
| 法律上の扱い | 生きている前提 | 死亡したものとみなす |
| 遺産分割 | 管理人が代わりに加わる | 不在者の相続人が加わる |
| 申立ての収入印紙 | 800円 | 800円 |
| 官報公告料 | なし | 5,298円 |
| 予納金 | 必要なことがある | なし |
失踪宣告には2種類あります。
- 普通失踪:生死が7年間明らかでないとき
- 危難失踪:戦争、船の沈没、震災などの危難が去った後、生死が1年間明らかでないとき
官報公告料の5,298円は、催告の3,359円と宣告の1,939円の合計です。
失踪宣告を受けると、不在者自身の相続が始まります。 不在者に配偶者や子がいれば、その人たちが代わりに遺産分割に加わります。結局また別の相続人を探すことになる場合もあるので、家族構成を確かめてから選んでください。
10年たてば持分を取得できる制度もある

2023年4月1日から、民法第262条の2に新しい制度が加わりました。所在等不明共有者の持分の取得です。
不動産の共有者の中に、誰だか分からない人や所在が分からない人がいる場合、他の共有者が地方裁判所に申し立てて、その人の持分を取得できます。申立人は、裁判所が時価相当額を考慮して決めた金額を供託します。
ただし、相続した不動産で遺産分割がまだの場合は、相続開始から10年以上たっていることが条件です(民法第262条の2第3項)。
| 不在者財産管理人 | 所在等不明共有者の持分取得 | |
|---|---|---|
| 申立先 | 家庭裁判所 | 地方裁判所 |
| 対象 | 不在者の財産全体 | 共有不動産の持分 |
| 相続財産の場合 | いつでも | 相続開始から10年以上 |
| 結果 | 管理人が遺産分割に加わる | 申立人が持分を取得する |
| 不在者側の受け取り | 遺産分割の内容による | 供託金を請求できる |
東京地方裁判所の説明資料では、申立手数料は印紙1,000円(持分の数×申立人の数)、官報公告費用の予納金が7,134円からとなっています。
親が亡くなって10年以上、実家が兄との共有のまま放置されている。そんな場合には、管理人を立てるより早く片づく可能性があります。
相続登記の期限はどうなるか
2024年4月1日から、相続登記は義務になっています。相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければなりません。
行方不明の相続人がいて遺産分割ができない場合でも、期限は止まりません。 このときに使えるのが相続人申告登記です。自分が相続人であることを法務局に申し出れば、申し出た人については義務を果たしたことになります。
| 方法 | 申請できる人 | 名義 |
|---|---|---|
| 相続人申告登記 | 相続人の1人から | 移らない |
| 法定相続分での共有登記 | 相続人の1人から | 全員の共有になる |
| 遺産分割による登記 | 分割が終わってから | 取得した人に移る |
相続人申告登記は義務を一時的に満たすだけで、名義は変わりません。 行方不明の問題が片づいたら、あらためて遺産分割による登記をします。
義務化の全体像は相続登記の義務化にまとめています。
相続税の申告はどうなるか
相続税の申告期限は、それぞれの相続人が相続の開始を知った日の翌日から10か月です(相続税法第27条)。
行方不明の本人は親が亡くなったことを知らないので、本人の期限はまだ始まっていません。一方、ほかの相続人の期限は進みます。遺産分割が止まっていても、ほかの相続人は10か月以内に申告しなければなりません。
| 項目 | 扱い |
|---|---|
| 申告期限 | 各相続人が知った日の翌日から10か月 |
| 分割が決まっていない場合 | 法定相続分で分けたものとして申告 |
| 小規模宅地等の特例 | 分割が決まらないと使えない |
| 救済 | 申告期限後3年以内の分割見込書を出しておく |
| 基礎控除の人数 | 行方不明の相続人も数に入る |
分割見込書を申告書と一緒に出しておけば、3年以内に分割が決まったとき、更正の請求で小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使えます。 出し忘れると、あとから特例を使えません。
基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で、行方不明の人も法定相続人として数えます。行方が分からないからといって人数から外すと、税額を多く計算してしまいます。
申告期限は、行方不明の相続人を待ってくれない
遺産分割が止まっていても、10か月の期限は進みます。未分割での申告と分割見込書の提出を、相続に強い税理士に頼めます。紹介は無料です。
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つまずきやすい8つ

| つまずき | 何が起きるか |
|---|---|
| 探さずにいきなり申し立てた | 不在の事実を示せない |
| 返送された封筒を捨てた | 申立ての資料がなくなる |
| 住所が分かるのに管理人を申し立てた | 不在者にあたらない |
| 不在者の取り分をゼロにする案を出した | 権限外行為許可が出ない |
| 予納金を想定していなかった | 申立ての段階で止まる |
| 失踪宣告で不在者の相続人を調べなかった | また別の相続人を探すことになる |
| 10年以上たっているのに持分取得を検討しなかった | 遠回りになる |
| 登記の期限を放置した | 過料の対象になる |
3番目は意外に多い間違いです。 連絡を拒んでいるだけの相続人は、不在者ではなく調停の相手です。
よくある質問
Q. 申立てから管理人が選ばれるまで、どのくらいかかりますか
裁判所は期間を示していません。不在の事実の確認や予納金の納付があるため、数か月かかることがあります。遺産分割の権限外行為許可は、選任の後に別に申し立てます。
Q. 不在者が海外にいるらしいのですが
海外に住んでいることが分かっていて連絡先も分かるなら、不在者ではありません。所在が分からないなら、国内の場合と同じく管理人の選任を申し立てます。
Q. 不在者が戻ってきたらどうなりますか
管理人の役目は終わり、財産は本人に引き継がれます。管理人が許可を得てした遺産分割は有効なので、やり直しにはなりません。
Q. 予納金は返ってきますか
使われなかった分は返ってきます。不在者に取り分が入り、そこから管理人の報酬が払われた場合も、残った予納金は戻ります。
Q. 相続放棄はできますか
不在者本人の相続放棄は、管理人が代わりに判断することになり、家庭裁判所の許可が要ります。他の相続人が自分の分を放棄することは、不在者がいても自由です。
まとめ
- 相続人が1人でも欠けた遺産分割は無効。預金も登記も売却も止まる
- まず戸籍の附票で住所を追い、手紙を出す。返送された封筒は保管する
- 住所が分かって連絡を拒むだけなら不在者ではない。調停の相手になる
- 不在者財産管理人の申立ては収入印紙800円。予納金は20万〜100万円程度と言われる
- 管理人が遺産分割に加わるには、家庭裁判所の権限外行為許可が別に要る
- 不在者の法定相続分を確保する内容でないと、許可は出にくい
- 帰来時弁済型は、戻ったら代償金を払う約束で分ける方法。必ず認められるわけではない
- 生死が7年分からなければ失踪宣告。官報公告料は5,298円
- 失踪宣告を受けると不在者の相続が始まる。その相続人を探すことになる場合がある
- 相続開始から10年以上なら、地方裁判所で不在者の持分を取得する制度もある
- 登記の3年の期限は止まらない。相続人申告登記で義務を満たせる
出典
- 不在者の定義・申立人・申立先・費用・必要書類・権限外行為:裁判所「不在者財産管理人選任」手続案内
- 普通失踪・危難失踪・官報公告料:裁判所「失踪宣告」手続案内
- 不在者の財産の管理:民法第25条、第28条
- 失踪の宣告:民法第30条、第31条
- 所在等不明共有者の持分の取得:民法第262条の2、東京地方裁判所「所在等不明共有者持分取得申立てについて」
- 相続登記の申請義務と相続人申告登記:不動産登記法第76条の2、第76条の3

