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親の住宅ローンは、亡くなれば団体信用生命保険で消える。多くの人がそう思っています。
たいていはその通りです。ただし、団信に入っていなかった、返済が滞って団信が外れていた、事業の借入れの担保に家が入っていた。こうした場合、残債は消えずに相続人へ回ってきます。
返せないまま放置すれば、金融機関は裁判所に競売を申し立てます。その前に、自分で買い手を探して売るのが任意売却です。
住宅金融支援機構の任意売却パンフレット(令和8年4月版)をもとに、仕組みと期間、残った借金の扱いを整理します。
結論|先に3つ

1. 団信で消えないローンがある
未加入、延滞で脱退、事業ローンの担保。この3つは残債が相続されます。
2. 任意売却は競売より高く、時期を選べる
住宅金融支援機構も、任意売却を勧める理由としてこの2点を挙げています。
3. 家の価値より残債が大きいなら、相続放棄を先に考える
放棄の期限は、相続の開始を知ってから3か月です。
任意売却を扱う会社に相談する
任意売却は、債権者との調整ができる不動産会社でなければ進みません。仲介・買取・任意売却を一社で扱う会社なら、売り方ごとの手取りを比べられます。2026年10月時点で9都県に店舗があります。
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相続で残債が残るのはどんなときか

団体信用生命保険(団信)に入っていれば、借りた人が亡くなったとき保険金で残債が返済されます。家は借金のない状態で相続されます。
残債が相続人に回ってくるのは、次のような場合です。
| 状況 | なぜ残るか |
|---|---|
| 団信に入っていなかった | フラット35などは加入が任意 |
| 延滞して団信が外れていた | 期限の利益を失うと保障が終わることがある |
| 事業ローンの担保に家が入っていた | 住宅ローンの団信は事業の借入れを返済しない |
| 夫婦の連帯債務で、片方しか入っていなかった | 入っていない側の分が残る |
| 告知義務に違反していた | 保険金が支払われない |
いちばん気づきにくいのが2番目です。 返済が苦しくなって延滞していた親が、そのまま亡くなった。家族は団信があると思い込んでいた。こういう形で残債が表に出ます。
住宅ローンの借金は、相続人それぞれに法定相続分で分かれて引き継がれます。 遺産分割で「家は長男が継ぐ」と決めても、金融機関はそれに縛られません。民法第902条の2により、相続人の誰にでも法定相続分に応じて請求できます。
延滞すると団信が外れることがある

住宅金融支援機構の任意売却パンフレットは、団信が終わる条件を具体的に書いています。
任意売却を申し出るとき、まだ一括返済を求められていない人は「任意売却に関する申出書(期限の利益放棄確認用)」を出します。パンフレットは、この提出が返済継続を断念した意思表示になり、残債務全額の一括返済を求めることになる、と説明しています。
そのうえで、次の場合は団信の保障が終わります。
| 対象 | 扱い |
|---|---|
| 平成29年10月1日以後に申し込んだフラット35(買取型)で、新機構団信に加入 | 期限の利益の喪失で保障終了(団信脱退) |
| 令和2年10月1日以後に受理された新機構団信(金利組込方式) | 同上 |
つまり、親が存命のうちに返済が行き詰まって任意売却に進むと、その時点で団信が外れます。 その後に親が亡くなれば、残った借金はそのまま相続されます。
親の返済が苦しそうだと気づいたら、任意売却の前に、団信がどうなるかを金融機関に確認してください。 売却の時期と順番で、子が背負う借金の額が変わります。
任意売却と競売の違い

返済が止まった家の行き先は、任意売却か競売のどちらかです。
| 任意売却 | 競売 | |
|---|---|---|
| 売る人 | 所有者(相続人) | 裁判所 |
| 買い手探し | 不動産会社が通常の売却と同じく探す | 入札 |
| 価格 | 市場価格に近づけられる | 低くなりやすい |
| 引渡しの時期 | 話し合いで調整できる | 裁判所の手続きで決まる |
| 仲介手数料など | 売却代金から引ける場合がある | — |
| 近所に知られるか | 通常の売却と見分けがつかない | 物件情報が公開される |
| 必要な同意 | 抵当権を持つ債権者の同意 | 不要 |
住宅金融支援機構は、任意売却を勧める理由として3つを挙げています。
- 通常の不動産取引として売買されるため、一般的に競売より高値で売却できることが期待され、負債の縮減につながる
- 手続きに協力した場合、状況により売却代金から不動産仲介手数料、抹消登記費用等を控除できる場合がある
- 裁判所の手続きである競売と比べ、自宅の引渡時期の調整がしやすい
任意売却には債権者の同意が要ります。 売却価格が残債に届かなくても抵当権を外してもらう必要があるからです。自分たちだけで値段を決めて売ることはできません。
競売の価格はどう決まるか

競売では、裁判所が選んだ評価人の評価をもとに、裁判所が売却基準価額を決めます。
入札できる下限は、民事執行法第60条第3項で決まっています。
買受けの申出の額は、売却基準価額からその十分の二に相当する額を控除した価額(以下「買受可能価額」という。)以上でなければならない。
つまり、売却基準価額の8割で落札されることがありえます。 売却基準価額そのものも、内覧ができない、引渡しに手間がかかるといった競売特有の事情を織り込んで決まります。
競売で安く売れれば、そのぶん返しきれない借金が多く残ります。 相続人にとっては、家を失ったうえに借金も残るという、いちばん避けたい結果です。
家の価値と残債を並べてみる
残債より高く売れるなら普通に売って完済できます。下回るなら任意売却か相続放棄を考えます。判断の出発点は、いまいくらで売れるかです。査定は無料です。
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任意売却の流れ

住宅金融支援機構のパンフレットは、手続きを8段階で示しています。
- 「任意売却に関する申出書」の提出
- 物件調査・価格査定
- 売出価格の確認
- 媒介契約の締結
- 販売活動
- 抵当権抹消応諾の審査
- 売買契約の締結
- 代金決済・抵当権抹消
2番と3番に意味があります。 売出価格は売主が自由に決めるのではなく、不動産会社が査定し、債権者が確認します。安く売り急げば債権者が回収できる額が減るので、債権者が価格に関与します。
4番の媒介契約は、専任媒介契約か専属専任媒介契約と決められています。複数の会社に同時に頼む一般媒介契約は使えません。締結後10営業日以内に、媒介契約書とレインズの登録証の写しを出すことになっています。
どの不動産会社に頼むかで、結果が大きく変わります。 パンフレットも、適切な販売活動ができる仲介業者を選ぶことが必要で、慎重に選ぶよう書いています。
何か月かかるか

パンフレットに載っている期間の目安です。
| 段階 | 期間 |
|---|---|
| 申出書の提出から債権回収会社への委託まで | 通常3か月程度 |
| 媒介契約から買い手が現れるまで | 6か月を超えると業者の変更を求められることがある |
| 媒介契約の書類提出 | 締結後10営業日以内 |
機構が債権回収会社に業務を委託する場合、売出価格の確認や通知は債権回収会社が行います。
買い手がつかないまま初回の媒介契約から6か月を過ぎると、機構は仲介業者の変更を促すなどの対応をとる場合がある、とパンフレットは書いています。 任意売却にも時間の枠があり、その中で売れなければ競売に進みます。
売却代金から引ける費用
普通の売却では、仲介手数料や登記費用は売主が手元のお金で払います。ところが任意売却をする人は、手元にお金がないことがほとんどです。
そこで住宅金融支援機構は、手続きに協力した場合、状況により売却代金から不動産仲介手数料、抹消登記費用等を控除してお渡しできる場合があるとしています。延滞損害金の減額の相談に応じる場合がある、とも書いています。
| 費用 | 扱い |
|---|---|
| 不動産仲介手数料 | 売却代金から控除できる場合がある |
| 抹消登記費用 | 同上 |
| 延滞損害金 | 減額の相談に応じる場合がある |
「場合がある」であって、必ずではありません。 どこまで認められるかは、債権者との交渉と、本人の協力の度合いで決まります。パンフレットは協力してほしいこととして、室内外の清掃や家具の整理、内見への協力を挙げています。
実家に親の家財が残っているなら、片付けが売却の条件にもなります。遺品整理の段取りは遺品整理はいつから始めるかにまとめています。
残った借金はどうなるか

売却代金で借金を返しきれなかった場合、残りは消えません。パンフレットはこう書いています。
任意売却による返済金が債権額に満たない場合、破産免責となっている方を除き、お客さまの残債務の返済義務は残りますが、任意売却後の返済計画は、お客さまの生活状況等を踏まえてお客さまとともに返済可能な金額を決定していきます。
返済義務は残りますが、返済の仕方は生活に合わせて決めます。 一括で返せと言われるわけではありません。
| 選択肢 | 内容 |
|---|---|
| 分割で返す | 生活状況に合わせた額を債権者と決める |
| 債務整理 | 弁護士や司法書士に相談し、減額や免責を目指す |
| 相続の場合は相続放棄 | 家も借金も引き継がない |
相続人の立場なら、そもそも借金を引き継がない選択があります。 それが相続放棄です。
相続したら、先に相続放棄を考える
親が亡くなって住宅ローンが残っていると分かったら、任意売却の前に比べるべきことがあります。
| 家の価値が残債より大きい | 家の価値が残債より小さい | |
|---|---|---|
| 普通に売れば | 完済して手元に残る | 借金が残る |
| 任意売却 | 不要 | 借金を減らせる |
| 相続放棄 | もったいない | 家も借金も引き継がない |
相続放棄の期限は、自分のために相続の開始があったことを知ってから3か月です(民法第915条)。この間に家の価値と借金の額を調べ、どちらが大きいかを見極めます。
家の売却や家財の処分をすると、相続を承認したとみなされ、放棄できなくなることがあります。 任意売却を進めるかどうかは、放棄するかどうかを決めてからにしてください。
借金の調べ方は親の借金の調べ方、放棄したあとの実家の扱いは相続放棄した実家はどうなるかにまとめています。
対応エリアなら、任意売却の可否から相談する
残債と売却見込み額を並べて、任意売却で進めるか、通常の売却で足りるかを判断してもらえます。仲介・買取保証付き仲介・買取・任意売却・リースバックを扱う会社です。
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任意売却を頼む会社の選び方

任意売却は、通常の売却に債権者との調整が加わります。どの会社でもできるわけではありません。
| 確認すること | 理由 |
|---|---|
| 任意売却の取扱い実績があるか | 債権者への書類提出や価格確認の段取りを知っている |
| 専任媒介でレインズに登録するか | 機構の条件。登録証の写しを出す必要がある |
| 販売活動の報告を出すか | 債権者への報告が求められる |
| 控除してもらえる費用を説明できるか | 手元に何が残るかが変わる |
| 相続の手続きと並行して進められるか | 相続登記や放棄の判断と順番を合わせる |
| 「必ず残債がなくなる」と言わないか | 返しきれない分は残るのが原則 |
最後の項目は特に気をつけてください。 パンフレットにある通り、売却代金で返しきれない借金は、破産免責を受けた場合を除いて残ります。
相談料や着手金を先に求める業者にも注意が要ります。 任意売却の仲介手数料は、通常は売却代金から支払われる形で進みます。
つまずきやすい8つ

| つまずき | 何が起きるか |
|---|---|
| 団信があると思い込んだ | 残債が相続される |
| 延滞したまま放置した | 団信が外れ、競売に進む |
| 家の価値を調べずに相続した | 借金だけが残る |
| 放棄を考える前に家財を処分した | 放棄できなくなる |
| 一般媒介で複数社に頼んだ | 任意売却の条件を満たさない |
| 6か月売れないまま業者を替えなかった | 競売に移る |
| 次の順位の相続人に知らせずに放棄した | 親族に突然請求が行く |
| 残債の返済計画を話し合わなかった | 一括請求に近い扱いを受ける |
1番と2番は、親が元気なうちに確かめられます。 返済の状況と団信の加入状況を、一度聞いておいてください。
よくある質問
Q. 任意売却をすると、ブラックリストに載りますか
任意売却に至る前に延滞している時点で、信用情報には延滞の記録が残っています。任意売却そのものより、延滞の記録が影響します。
Q. 任意売却をしたあとも、その家に住み続けられますか
買い手が住むための家として買えば、出ていくことになります。住み続けたいなら、売却後に借りて住むリースバックの形を探す方法があります。詳しくはリースバックとはにまとめています。
Q. 相続人の1人だけが反対したら
共有の不動産を売るには全員の同意が要ります。1人でも反対すれば任意売却は進みません。その間に競売が進むことがあります。
Q. 競売の手続きが始まってからでも任意売却できますか
債権者が競売の申立てを取り下げれば、任意売却に切り替えられる余地があります。ただし入札(買受けの申出)があった後は、取り下げに買受人の同意が要ります(民事執行法第76条)。早く動くほど選択肢が残ります。
Q. 連帯保証人になっている場合は
主債務者の残債は、連帯保証人にも請求されます。相続放棄をしても、自分自身が連帯保証人になっている分は免れません。
まとめ
- 住宅ローンは団信で消えるとは限らない。未加入、延滞で脱退、事業ローンの担保は残る
- フラット35は、期限の利益を失うと新機構団信の保障が終わる場合がある
- 借金は相続人それぞれに法定相続分で引き継がれる。遺産分割で決めても債権者は縛られない
- 任意売却は競売より高値が期待でき、引渡しの時期も調整しやすい
- 競売は売却基準価額の8割(買受可能価額)まで下がりうる
- 機構の手続きは8段階。申出から債権回収会社への委託まで通常3か月程度
- 媒介は専任か専属専任。6か月買い手がつかなければ業者の変更を求められることがある
- 仲介手数料や抹消登記費用を売却代金から引ける場合がある
- 残った借金は消えないが、生活状況に合わせて返済額を決める
- 相続人なら、任意売却の前に相続放棄を比べる。期限は3か月
- 家財の処分や売却をすると放棄できなくなることがある
出典
- 任意売却を勧める理由・手続きの流れ・期間・控除できる費用・残債務の扱い・団信の終了:住宅金融支援機構「任意売却パンフレット」(令和8年4月)、同「融資住宅等の任意売却」
- 買受可能価額:民事執行法第60条第3項
- 相続債権者の権利の行使:民法第902条の2
- 相続放棄の期間:民法第915条

