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孤独死した実家は売れる?告知義務の範囲と価格下落率の実態

相続した実家の外観 実家の売却・活用
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親が実家で一人で亡くなり、発見まで日数が経っていた。その家を売ることになった。

このとき、真っ先に不安になるのは「事故物件として扱われるのか」「いくら下がるのか」「黙っていたらどうなるのか」の3つだと思います。

先に結論を言うと、孤独死のすべてが「告知が必要な事故物件」になるわけではありません。 分かれ目は死因と特殊清掃が行われたかどうかです。

そして、黙って売るのはいちばんやってはいけない選択です。値引き幅よりはるかに大きい損失になります。

この記事では、国土交通省のガイドラインを土台に、自分の実家がどの類型に当たるのかを判定できるところまで具体的に書きます。そのうえで、価格への影響と、仲介・買取の選び分けを扱います。

みどりみどり
父が実家で亡くなって、見つかったのが2週間後でした。特殊清掃も入りました。この家は事故物件になるのでしょうか。売るときに言わないといけませんか。
たくみ先生たくみ先生
特殊清掃が入っているなら、告知が必要と考えてください。 ただ、「事故物件」という法律用語はありません。 国土交通省のガイドラインで「告げるべき場合」が整理されているので、そこに当てはめて判断します。

相続した実家の外観

結論|先に3つ言っておきます

告知義務の判断と価格への影響

1. 自然死・病死は、原則として告知不要

老衰や病死など、日常生活の中で起きた死は、原則として告げなくてよいとされています(国土交通省ガイドライン)。「孤独死=事故物件」ではありません。

2. ただし、特殊清掃が入ったら告知が必要

発見が遅れ、特殊清掃や大規模なリフォームが行われた場合は、自然死であっても告げる必要があります。 ここが実務上いちばん多い分かれ目です。

3. 売買に「3年で消える」ルールはない

3年という期間は賃貸の話です。 売買については、ガイドラインに期間の定めがありません。 「3年経ったから言わなくていい」は誤りです。

そのうえで、告知したうえでも売れます。 価格は下がりますが、下落幅は死因と経過状況で大きく違います。


そもそも「事故物件」に法律上の定義はない

事故物件という言葉の位置づけ

「事故物件」は俗称です。 法律にも、宅地建物取引業法にも、この言葉の定義はありません。

実務で問題になるのは、「心理的瑕疵(かし)があるかどうか」、つまり買主が知っていたら買わなかった、あるいは価格が変わったであろう事情にあたるかどうかです。

根拠になる条文

  • 宅地建物取引業法 第47条第1号:宅建業者は、取引の判断に重要な影響を及ぼす事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げてはならない
  • 民法 第562条以下(契約不適合責任):引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合、買主は追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除ができる

つまり「事故物件かどうか」ではなく、「その事情が取引の判断に重要な影響を及ぼすか」で判断されます。

2021年10月にガイドラインができた

それまでは明確な基準がなく、不動産会社ごとに判断がばらついていました。 国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表し、告げなくてよい場合が整理されました。

ガイドラインは宅建業者向けのもので、売主個人を直接縛るものではありません。ただし、売主が事実を隠せば契約不適合責任を問われます。 実務上は、売主も同じ基準で考えることになります。


ガイドラインが示す「告げなくてよい場合」

告知が不要とされる3つの類型

ガイドラインは、次の場合には原則として告げなくてよいとしています。

内容 売買での扱い
① 自然死・日常生活の中での不慮の死(老衰、病死、転倒事故、誤嚥など) 告げなくてよい
② 隣接住戸や、日常生活で通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した①以外の死 告げなくてよい
③ ①以外の死、または特殊清掃等が行われた①の死が発生し、おおむね3年が経過した場合 賃貸のみ。売買は対象外

①の重要な例外

①であっても、特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合は、告げなくてよい対象から外れます。 つまり「自然死だが発見が遅れて特殊清掃が入った」ケースは、告知が必要です。

②は集合住宅の話

戸建ての実家では、②が問題になる場面はほとんどありません。

③は賃貸だけ

「3年経てば言わなくていい」という話が広まっていますが、これは賃貸借取引に限った整理です。売買には期間の定めがありません。


自分の実家がどれに当たるか判定する

告知が必要かどうかの判定フロー

手順

  1. 死因は何か(自然死・病死か、自殺・他殺・事故死か)
  2. 特殊清掃が行われたか(費用の請求書があるはずです)
  3. 大規模なリフォームを行ったか(床の張り替え、壁の解体など)
  4. 近隣に知られているか

判定

  • 病死・老衰で、発見が早く、通常のハウスクリーニングのみ→ 原則として告知不要
  • 病死・老衰だが、特殊清掃が入った→ 告知が必要
  • 自殺・他殺→ 死因を問わず告知が必要
  • 火災による死亡→ 告知が必要

判断に迷ったら「告知する」

告知して売れなかった損失より、告知せずに後から解除・賠償になる損失のほうが大きいです。迷ったら告げるのが実務の原則です。

特殊清掃が入ったかどうかは、孤独死の特殊清掃費用にまとめた作業内容と照らすと判断しやすくなります。

告知が必要な物件でも、査定は取れる

「事故物件だから値がつかない」と決めつける前に、実際にいくらになるかを確かめてください。 告知事項のある物件を専門に扱う買取窓口があります。

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特殊清掃が入ったかを確かめる方法

親の家の片付けを親族に任せていた、業者名を覚えていない——「特殊清掃が入ったかどうか」自体が分からないというケースがあります。

特殊清掃の有無を確かめる手順

確かめる順番

  1. 支払いの記録を見る。故人や相続人の口座から、清掃・消臭・リフォーム業者への出金がないか
  2. 片付けを頼んだ業者に問い合わせる。作業報告書が残っていることが多い
  3. 管理会社・大家・自治会に聞く(賃貸だった場合や、近隣が対応した場合)
  4. 現場を見る。床材だけ新しい、壁の一部だけクロスが違う、といった痕跡がある

見分け方の目安

状況 判断
通常のハウスクリーニングのみ 特殊清掃には当たらない
消臭・除菌のオゾン施工が入っている 特殊清掃に当たると考える
床材・畳を剥がして交換している 特殊清掃に当たる
壁の解体や断熱材の交換をしている 特殊清掃に当たる

分からないままにしない

「たぶん普通の清掃だった」で告知しないのは危険です。後から請求書が出てきて、告知していなかったことが発覚するというのが最悪の流れです。

確認できなかった場合は、その旨も含めて仲介会社に伝えてください。


何を、どこまで伝えるのか

告げる内容と、告げなくてよい内容

告知が必要だとしても、すべてを話す必要はありません。

ガイドラインは、亡くなった方やその遺族の名誉・生活の平穏に十分配慮するよう求めています。

告げる内容

  • いつ(おおむねの時期)
  • どこで(部屋の場所)
  • どのような死因か(自然死、自殺、他殺など、種別のレベル)
  • 特殊清掃等が行われたか

告げなくてよい内容

  • 亡くなった方の氏名・年齢・住所
  • 家族構成
  • 具体的な死の態様、発見時の状況

「2階の寝室で、2023年に病死。発見までに日数があり、特殊清掃を行った」——この程度で足ります。詳細な描写は不要です。

書面に残す

口頭で伝えただけでは、後で「聞いていない」と言われます。

  • 告知書(物件状況等報告書)に記載する
  • 重要事項説明書に記載してもらう
  • 売買契約書の特約に入れる

仲介会社に「告知事項として記載してください」と自分から伝えてください。


残置物を空にしてから見せるほうが、結果的に高く売れます。不用品回収の無料見積もりで費用を確かめてください。

内覧で気づかれるポイント

告知していても、現地の状態が悪ければ、それ以上に価格が下がります。

内覧で敬遠される具体的なポイント

におい

入って3秒で判断されます。 締め切った家は、本人が慣れてしまって気づけません。 第三者に確認してもらってください。

  • 押し入れ、床下収納、エアコン内部にこもりやすい
  • 芳香剤で覆うと、かえって不自然に感じられる
  • 内覧の2時間前から換気し、無臭の状態にするのが基本

床の変色・張り替え跡

一部だけ新しい床材は、事情を推測させます。部屋全体を張り替えるか、告知内容とセットで説明できる状態にしてください。

残置物

仏具、位牌、薬、介護用品——生活の痕跡が強く残るものは、事故物件では特にマイナスに働きます。空にしてから見せてください。

近隣の視線

内覧中に近所の人が話しかけてくることがあります。悪意がなくても、買い手には決定的な情報になります。

「隠している感じ」がいちばん響く

告知したうえで、状態を見せて、記録も見せる。 開示されている物件のほうが、結果的に高く売れます。

空き家のまま内覧に出すときの準備と当日の対応については、空き家の内覧の準備にまとめています。


告知しなかった場合に起きること

告知義務違反のリスク

買主が取りうる手段

手段 内容
契約解除 契約が白紙に戻り、代金を返す。登記も戻す
代金減額請求 下落分の返金を求められる
損害賠償請求 引越し費用・リフォーム費用・慰謝料など

時効の考え方

契約不適合責任は、買主が不適合を知った時から1年以内に通知する必要があります(民法566条)。ただし売主が知りながら告げなかった場合、この期間制限は適用されません(同条ただし書)。

「特約で免責にしたから大丈夫」も通りません。 売主が知っていて告げなかった事実については、免責特約は効きません(民法572条)。

個人売主でも同じ

宅建業者ではない個人の売主でも、契約不適合責任は負います。 「素人だから知らなかった」は、自分が知っていた事実については通用しません。

近隣から伝わる

戸建ての場合、近所の人が知っています。 買主が引っ越してきて、挨拶回りのときに聞かされる——これが実際によくある発覚経路です。

隠し通せる前提で計画を立てないでください。

引き渡しのあとに不具合が見つかったときの売主の責任と免責は、売ったあとの契約不適合責任で詳しく説明しています。


消臭と原状回復にいくらかかるか

原状回復にかかる費用の内訳
作業 費用の目安
特殊清掃(体液・汚損の除去) 15万〜50万円
オゾン脱臭(1日あたり) 1万〜3万円。数日かかることが多い
畳・床材の撤去と交換 10万〜40万円
床下(根太・断熱材)の交換 30万〜100万円
壁の解体と復旧 20万〜80万円
残置物の処分 15万〜40万円
全体をリフォームする場合 100万〜300万円

どこまでやるかの判断

買取に出すなら、原状回復は業者側でやるほうが安く済むことが多いです。業者は自社ルートで施工するため、個人が発注するより単価が下がります。

仲介で売るなら、においだけは確実に消してください。 においが残る物件は、価格を下げても売れません。

費用は誰が負担するのか

  • 相続財産から支払うのが原則
  • 相続人が立て替えた場合は、領収書を残し、遺産分割で精算する
  • 賃貸だった場合、原状回復の範囲は契約と個別の事情による

費用の内訳は孤独死の特殊清掃費用に、実データを含めてまとめています。

見積もりは遺品整理・特殊清掃の無料一括見積もりで複数社から取れます。同じ現場でも数十万円変わります。


価格はどれくらい下がるのか

死因別の価格下落の目安

公的な統計はありません。 以下は取引実務で言われている目安で、物件ごとの幅が非常に大きい点に注意してください。

事案 下落幅の目安
自然死・病死(特殊清掃なし) ほぼ影響なし〜1割
孤独死(特殊清掃あり) 1〜2割
自殺 2〜4割
他殺・火災死 3〜5割

「下がる」のは何に対してか

比較の基準は「同条件の事故のない物件の成約価格」です。売り出し価格ではありません。

もともと築古で建物に価値がついていない実家なら、土地値がベースになるため、下落率は小さくなります。

戸建てはマンションより影響が小さいことが多い

マンションは同じ建物内で比較対象が並ぶため、価格差が可視化されます。戸建ては個別性が高く、比較されにくい分、影響が出にくい傾向があります。

時間の経過で戻るのか

賃貸では3年という目安がありますが、売買にはありません。 ただし実務上、年数が経ち、リフォームが済み、間に別の居住者が入っているといった事情があれば、影響は薄れていきます。


自殺・他殺だった場合に変わること

自然死と自殺・他殺で扱いが変わる点

自然死との違いは、「特殊清掃の有無を問わず、告知が必要」という点です。

変わる点

自然死(特殊清掃なし) 自殺・他殺
告知 原則不要 必要
下落幅 ほぼ影響なし〜1割 2〜5割
買い手 通常の実需 投資家・再販業者が中心
近隣の記憶 薄い 長く残る
報道の有無 なし 他殺では報道されることがある

報道された場合

検索すれば出てくる状態になります。買主は必ず調べるので、隠す前提は成り立ちません。

賃貸に出していた物件で起きた場合

貸主として、借主の相続人や連帯保証人に原状回復・損害賠償を請求できる場合があります。 ただし請求できる範囲は個別事情によります。 弁護士に確認してください。

建物を解体するかどうか

自殺・他殺では、建物を残すより、解体して土地として売るほうが動きやすいケースが増えます。ただし告知義務は消えません。 解体費と下落幅を比べて判断してください。

焦って安く手放さない

「早く終わらせたい」という気持ちが、いちばん値段を下げます。 複数社から取る手間を惜しまないでください。


下落幅を決める4つの要因

価格への影響を左右する要因

1. 死因

自然死か、自殺・他殺か。 ここがいちばん大きく効きます。

2. 特殊清掃の有無と、その後の状態

においや痕跡が残っていないか。 内覧で分かる状態なら、下落幅は大きくなります。 逆に床材まで交換して原状回復済みなら、影響は抑えられます。

3. 発生からの経過期間

直後より、数年経ったほうが影響は小さくなります。 ただし売買では期間で告知義務が消えることはありません。

4. 立地と需要

買い手の母数が多い地域なら、気にしない層に届く確率が上がります。買い手が少ない地方では、影響が大きく出ます。

建物を壊すと下落幅は縮むのか

建物を解体して更地にしても、告知義務がなくなるわけではありません。 土地上で起きた事案として、引き続き告げる対象になりうると考えてください。

ただし心理的な抵抗は薄れるため、実務上は解体後のほうが売りやすくなることがあります。 解体費と下落幅を比べて判断します。

解体を検討するなら、実家の解体費用で坪数別の相場を確認してください。


相続した実家が孤独死現場だったときの手順

発見から売却までの流れ

1. 特殊清掃の記録を残す

見積書・請求書・作業報告書・作業前後の写真を保管してください。告知の内容を裏づける資料になり、「原状回復済み」を示す材料にもなります。

2. 相続登記を済ませる

被相続人名義のままでは売れません。 2024年4月から相続を知った日から3年以内が期限です。詳しくは相続手続きの必要書類と集め方にまとめています。

3. 残置物を片付ける

家財が残ったままの内覧は、それだけで敬遠されます。 事故物件ではさらに強く影響します。

4. においと痕跡を消す

消臭が不十分だと、内覧の瞬間に判定されます。 オゾン脱臭や、床下・壁内までの施工が必要な場合があります。

5. 告知内容を確定する

仲介会社と、何をどう書くかを事前にすり合わせます。

6. 仲介と買取、両方の金額を取る

事故物件は、この2つの差が特に大きく出ます。 必ず両方の数字を持ってから決めてください。


比べるには、両方の金額が要る

仲介と買取のどちらが得かは、両方の数字を並べないと決められません。 買取の提示は「下限」としても使えます。

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仲介で売るか、買取に出すか

仲介と買取の比較
仲介 買取
買主 一般の個人 不動産会社
価格 市場価格から下落分を引いた額 さらに低いが、下落分の織り込みは業者による
期間 長期化しやすい 数日〜1か月
内覧 必要。近隣にも知られる 原則1回
契約不適合責任 売主が負う 免責が一般的
近隣への露出 広告が出る 出ない

買取が向いているケース

  • 告知が必要で、仲介では反響が来ない
  • 近隣に知られたくない
  • 相続人が複数いて、早く現金化して分けたい
  • 特殊清掃後の状態に不安があり、責任を負いたくない

買取の強みは「免責」

事故物件でいちばん怖いのは、売った後に責任を追及されることです。買取なら契約不適合責任を免責にするのが一般的で、この不安から解放されます。

価格差だけでなく、この安心を含めて比べてください。

仲介でも売れる場合はある

投資用として買う層、リフォーム前提で安く買いたい層は一定数います。告知したうえで、価格を市場に届く水準にすれば動きます。

仲介で半年動かない場合の立て直しは、実家が売れないにまとめています。


相続人が複数いるときの合意

相続人が複数いる場合に決めておくこと

事故物件の売却では、相続人の間で意見が割れやすいという特徴があります。

割れる理由

  • 「安く買い叩かれている」と感じる相続人がいる
  • 「近所に知られたくない」人と「早く現金化したい」人で優先順位が違う
  • 亡くなった経緯そのものに、感情的なわだかまりがある

売り出す前に決めておくこと

  1. 告知の内容(何をどこまで書くか)
  2. 最低売却価格
  3. 買取に切り替える条件(例:仲介で3か月動かなかったら)
  4. 特殊清掃・原状回復の費用を誰が立て替えるか
  5. 窓口を誰にするか

書面にしておく

口約束のままだと、買付が入ってから覆ります。 遺産分割協議書か覚書に書いてください。

全員に事実を共有する

「知らない相続人がいる」状態は危険です。 契約直前に知って反対されると、その契約は流れます。 一度流れた物件は、業界内で扱いにくくなります。

共有名義そのものの扱いは共有名義の実家は売れる?にまとめています。


買い手はどんな人か

「誰も買わない」と思われがちですが、実際には買う層が存在します。

告知事項のある物件を買う層

1. 賃貸に回す投資家

利回りで判断する層です。安く買えれば、賃料は相場の1〜2割減で回せると考えます。賃貸では3年の目安があるため、時間が経てば告知が不要になる点も判断材料になります。

2. リフォーム再販業者

全面リフォームして販売する層です。室内を完全に作り替えるため、痕跡やにおいの問題が解消されます。

3. 解体して土地として使う人

建物を求めていない層です。隣地所有者、資材置き場、駐車場としての利用など。

4. 気にしない実需の買い手

「安く広い家に住めるなら構わない」という層は一定数います。宗教観や価値観によって受け止め方が違います。

それぞれで「効く材料」が違う

買い手 効く材料
投資家 想定賃料と利回り
再販業者 建物の構造・立地・再販価格
土地利用 接道・地型・解体費
実需 原状回復の記録と価格

買い手の想定を決めてから売り方を選ぶと、無駄が減ります。「一般の実需だけ」を前提にすると、選択肢が狭くなります。

工事費と売値の上乗せ額の比べ方は、売る前にリフォームすべきかで詳しく説明しています。


買取業者の選び方

訳あり物件の買取業者を選ぶ観点

必ず複数社から取る

事故物件の買取価格は、業者によって差が特に大きくなります。 再販の出口(リフォームして再販/賃貸に回す/解体して土地として売る)が違うためです。

同じ物件で、200万円と480万円という開きが出ることがあります。

確認すること

  1. 告知事項のある物件の取扱実績があるか
  2. 契約不適合責任を免責にしてもらえるか
  3. 残置物をそのまま引き取ってもらえるか
  4. 特殊清掃・消臭を業者側で行うか
  5. 決済までの期間
  6. 仲介手数料がかかるか(買主が直接なら不要)

「事故物件だから買い叩ける」と考える業者もいる

1社だけに聞くと、その業者の言い値になります。 比較対象があると、交渉の土台ができます。

残置物ごと引き取ってもらえると、実質額が変わる

片付けを自分でやると15万〜40万円かかります。業者が引き取ってくれるなら、その分は実質的な上乗せです。

不用品の処分を自分で手配する場合は、不用品回収の見積もりを取って比べてください。


ケース別|3つの実例

3つのケースの判断と結果

ケース1|病死・発見翌日・特殊清掃なし

母が自宅で亡くなり、翌日に訪問した親族が発見。 通常のハウスクリーニングのみで、床材の交換もなし。

ガイドラインの①に当たり、告知は不要と判断。仲介会社にも事情を伝えたうえで、告知事項なしで売り出し。 相場どおりの2,380万円で成約しました。

「孤独死=事故物件」ではない典型例です。

ケース2|病死・発見まで3週間・特殊清掃あり

父が自宅で亡くなり、3週間後に発見。 特殊清掃38万円、床下の交換に62万円かかりました。

自然死だが特殊清掃が入ったため、告知が必要と判断。「2階寝室で病死、発見までに日数があり特殊清掃と床の交換を実施」と告知書に記載。

仲介で4か月動かず、買取に切り替えて3社から取得。 提示は880万〜1,340万円。1,340万円で売却、契約不適合責任は免責としました。

仲介の想定価格(1,750万円)との差は410万円でしたが、責任を負わずに終えられた点を含めて判断しました。

ケース3|自殺・5年経過

兄が実家で自ら命を絶ち、5年が経過。 その間は空き家のままでした。

期間の経過では告知義務は消えないため、告知したうえで売り出し。近隣にも知られており、公示サイトにも掲載されていました。

土地値が2,100万円の地域で、建物付き1,450万円で成約。 解体して土地として売る前提の買い手でした。解体費を売主が負担しなかった分、手取りは想定より多く残りました。

3つに共通すること

いずれも「告知した状態」で売れています。 違ったのは、買い手の層と、売り方です。


更地にすれば告知は不要になるのか

解体しても告知義務は消えない

なりません。

建物を解体しても、その土地で人が亡くなった事実は残ります。 取引の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる限り、告げる対象になりうると考えてください。

それでも解体が有利になることはある

  • 建物に価値がなく、買主が必ず壊す
  • においや痕跡が残っており、内覧のたびにマイナス評価を受ける
  • 土地の形がよく、住宅用地として需要がある

解体で失うもの

  1. 住宅用地の特例が外れ、固定資産税が最大6倍(地方税法349条の3の2)
  2. 解体費(木造30坪で90万〜150万円)を先に負担する
  3. 空き家の3,000万円特別控除の要件から外れる場合がある

「壊せば売れる」ではなく、「壊しても告知は要る」——ここを外すと、解体費だけ払って状況が変わらないことになります。


賃貸に出してから売る方法は有効か

「一度貸してから売る」は有効か

「誰かを住まわせれば告知義務が消える」という説明を見かけますが、売買では成り立ちません。

なぜ成り立たないのか

  • 3年の目安は賃貸借取引の話で、売買には期間の定めがない
  • 売主が事実を知っている以上、契約不適合責任からは逃れられない
  • 短期間だけ人を入れる行為自体が、隠す意図と受け取られる

税金の面でも不利になる

一度でも貸すと、空き家の3,000万円特別控除の要件から外れます(相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付け・居住の用に供されていないこと/租税特別措置法35条3項)。

告知義務は消えず、特例だけ失う——これが実際に起きることです。

やるなら「原状回復」に投資する

貸すのではなく、においと痕跡を確実に消し、その記録を残す。 買主の不安を消すのは、時間ではなく状態です。


事故物件公示サイトへの掲載

公示サイトに載った場合の対応

民間の事故物件公示サイトに情報が掲載されることがあります。運営は民間で、公的な制度ではありません。

掲載されているかを確認する

売り出す前に自分で検索して確認してください。買主は必ず調べます。 サイトに載っているのに告知書に書かれていないという状態が、いちばん不信を招きます。

削除を求められるか

運営者に削除依頼はできますが、応じる義務はありません。 事実である限り、削除されないことが多いと考えてください。

掲載を前提に組み立てる

「載っているが、こういう事情で、こう原状回復した」と説明できる状態にするほうが現実的です。隠す前提の計画は崩れます。


税金|空き家の3,000万円特別控除は使えるか

事故物件と空き家の3,000万円特別控除

孤独死があったこと自体は、特例の要件に影響しません。 要件は次のとおりです(租税特別措置法35条3項)。

  • 相続開始の直前に被相続人が一人で住んでいたこと
  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
  • 相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付け・居住の用に供されていないこと
  • 耐震基準に適合させるか、除却して売ること(2024年1月以降は買主が翌年2月15日までに行う場合も可)
  • 売却代金が1億円以下であること
  • 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること

孤独死のケースはむしろ要件に合いやすい

「相続開始の直前に被相続人が一人で住んでいたこと」が要件なので、一人暮らしの親が自宅で亡くなったケースは、この点を満たしやすいといえます。

注意点

  • 相続人が3人以上の場合、1人あたりの控除額は2,000万円に縮減(2024年1月1日以後の譲渡)
  • 特殊清掃費用は譲渡費用に含められないのが原則。相続財産から支払った場合の扱いは税理士に確認してください

税金の全体像は相続した実家の売却にかかる税金にまとめています。判断に迷うなら、相続に強い税理士の無料紹介を使って確かめてください。


仲介会社に断られたときは

仲介を断られたときの選択肢

「うちでは扱えません」と言われることがあります。

断られる理由

  • 会社の方針として、告知事項のある物件を扱わない
  • 担当者に経験がなく、責任を負いたくない
  • 売れる見込みが薄く、広告費を掛けられない

法律上扱えないわけではありません。 会社ごとの判断です。

次にやること

  1. 訳あり物件の取扱実績がある会社に当たる
  2. 買取業者に直接査定を依頼する(仲介を通さない形)
  3. 一般媒介にして、複数社に同時に依頼する

「引き受けます」と言う会社にも注意する

告知事項を軽く扱う会社は、後で問題を起こします。

  • 告知書にどう書くかを、具体的に説明できるか
  • 重要事項説明書に記載する内容を、事前に見せてくれるか
  • 過去に同種の物件を扱った実績があるか

この3つに答えられる会社を選んでください。


近隣への対応

近隣への対応と、その影響

戸建ての実家では、近隣がすでに知っています。 買い手も、引っ越してから必ず耳にします。

売り出す前にやること

  • 片付けと草刈りを済ませる。放置された家は、それだけで話題になります
  • 清掃や工事で迷惑をかけた場合は、ひとこと伝えておく
  • 「売却の予定です」とだけ伝えておく。詳細を話す必要はありません

やってはいけないこと

  • 近隣に口止めをする。かえって印象が悪くなり、買い手に伝わったときの反発が大きくなります
  • 内覧のたびに近隣が集まる状態を放置する

買い手への影響を先回りする

買い手が近隣から聞かされる内容と、告知書の内容が食い違わないようにしてください。食い違いがあると、そこから不信が生まれます。

「告知書に書いてあるとおりです」と言える状態が、いちばん強い守りになります。


よくある失敗5つ

事故物件の売却でやりがちな失敗

1. 告知せずに売る

いちばん損失が大きい選択です。 解除・賠償になれば、値引き幅どころではありません。

2. 「3年経ったから大丈夫」と考える

3年は賃貸の目安です。 売買には期間の定めがありません。

3. 消臭が不十分なまま内覧させる

入った瞬間に判定されます。 一度そう思われた物件は、その買い手には二度と売れません。

4. 買取を1社だけに聞く

事故物件は業者間の価格差が特に大きいです。1社の提示を相場と誤認すると、数百万円を取り逃します。

5. 特殊清掃の記録を捨てる

「原状回復済み」を示す唯一の材料です。請求書と写真は残してください。


売り出す前のチェックリスト

売り出す前に確認すること
  • 死因を確認した
  • 特殊清掃の有無を確認し、請求書・報告書を保管した
  • 原状回復の内容と時期を書き出した
  • においを第三者に確認してもらった
  • 残置物を撤去した
  • 相続登記を済ませた
  • 相続人全員に事実と方針を共有した
  • 告知内容を仲介会社とすり合わせ、告知書に記載した
  • 公示サイトへの掲載の有無を自分で確認した
  • 仲介と買取、両方の金額を取った

すべて埋まってから売り出すと、途中で止まりにくくなります。


よくある質問

Q. 孤独死は必ず事故物件になりますか?

A. なりません。 自然死・病死で、発見が早く、特殊清掃が行われていなければ、原則として告知は不要とされています。特殊清掃が入ったかどうかが実務上の分かれ目です。

Q. 発見まで何日なら特殊清掃が要りますか?

A. 日数で決まるものではありません。 季節や室温、発見時の状況で変わります。実際に特殊清掃業者が入ったかどうかで判断してください。

Q. 親が病院で亡くなった場合はどうですか?

A. 自宅で亡くなっていないので、告知の対象になりません。 実家は通常の物件として売れます。

Q. 買主から聞かれたら答えないといけませんか?

A. はい。 ガイドラインでも、買主から問われた場合や、取引の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には告げる必要があるとされています。告知不要とされる類型であっても、聞かれたら答えてください。

Q. 仲介会社に伝えれば、自分は何もしなくていいですか?

A. 売主自身が告知書(物件状況等報告書)に記載します。 仲介会社は、それをもとに重要事項説明を行います。自分が知っている事実は、すべて仲介会社に伝えてください。

Q. 相続人が複数いて、事故のことを知らない人がいます

A. 全員に共有してください。 売却には共有者全員の同意が必要で、後から知った相続人が契約に反対すると流れます。

Q. 賃貸中の物件で入居者が亡くなりました。売るときは?

A. 賃貸では「おおむね3年」の目安がありますが、売買には適用されません。 売却時には、買主に対して告げる必要があるかを個別に判断します。

Q. 火災で亡くなった場合はどうなりますか?

A. 告知が必要です。 加えて建物の損傷や修復の履歴も、契約不適合責任の対象になります。修復内容を書面で残してください。

Q. 告知書に書いたのに、買主から後で文句を言われました

A. 書面に残っていれば、説明したことの証明になります。 告知書・重要事項説明書・売買契約書の特約——この3つに記載されていれば、通常は問題になりません。 口頭だけで済ませていた場合が危険です。

Q. 更地にしてから売れば、公示サイトから消えますか?

A. 運営者の判断によります。 建物がなくなっても、土地の情報として残ることがあります。 削除依頼はできますが、応じる義務はありません。

Q. 事故物件専門の買取業者は、普通の買取業者と何が違いますか?

A. 再販の出口を持っているかどうかです。専門業者は、リフォームして賃貸に回す、投資家に売る、解体して土地として売るといったルートを持っています。出口がある分、値段を出せます。

Q. 特殊清掃の費用は、売却代金から差し引けますか?

A. 譲渡費用には含められないのが原則です。譲渡費用は「売るために直接かかった費用」に限られます。相続財産から支払った場合の扱いは、税理士に確認してください。

Q. 親が老人ホームで亡くなり、実家は空き家でした

A. 実家では亡くなっていないので、告知の対象になりません。 ただし空き家の3,000万円特別控除については、老人ホーム入居時の要件が別にあります。 一定の要件を満たせば適用できる場合があります。

Q. 誰にも知られずに売ることはできますか?

A. 買主には必ず告げる必要があります。 ただし近隣に売却活動を知られたくない場合、買取なら広告が出ません。 仲介では、ポータルサイトへの掲載や現地看板で周囲に伝わります。「非公開で進めたい」と最初に伝えてください。

Q. 相続放棄をすれば、告知の問題から逃れられますか?

A. 相続放棄すれば所有者にならないので、売主としての責任は生じません。 ただし放棄は3か月以内で、預貯金など他の財産もすべて放棄することになります。 詳しくはいらない実家は相続放棄できる?にまとめています。

Q. 隣の家で事件があった場合、うちの実家も告知が必要ですか?

A. 戸建てで、自分の敷地内で起きていないなら、原則として告知の対象ではありません。 ただし買主から問われた場合や、取引の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は、告げる必要があります。 報道された事件などは、聞かれる前提で準備しておくほうが安全です。

Q. 内覧のときに、自分から事故のことを話すべきですか?

A. 告知書に記載していれば、内覧時に改めて説明する義務はありません。 ただし聞かれたら正直に答えてください。 はぐらかすと、その場で信用を失います。


早く終わらせたいときの最短ルート

最短で手放す場合の手順

相続人が遠方にいる、精神的に長く向き合いたくない——早さを優先する場合の組み立てです。

  1. 相続登記を先に済ませる(ここが遅れると、他が全部止まります)
  2. 買取業者3社に同時に査定を依頼する(仲介は挟まない)
  3. 残置物ごと引き取ってもらえるかを、査定時に確認する
  4. 契約不適合責任の免責を条件に入れる
  5. いちばん高い提示を選び、決済日を決める

この形なら、相続登記が済んでいれば1か月前後で終わります。

代わりに失うもの

  • 仲介で売った場合との差額(2〜4割)
  • 時間をかけて買い手を探す可能性

それでも合理的な場合がある

空き家の維持費(年20万〜50万円)、特殊清掃後の管理、相続人間の調整コスト——これらを続ける負担と比べて判断してください。

「早く終わらせる」ことに価値がある局面は、実際にあります。


まとめ|隠さず、比べて、記録を残す

事故物件を売るときの順番

確認する順番

  1. 死因と、特殊清掃の有無を確認する
  2. 告知が必要かどうかを、ガイドラインに当てはめて判定する
  3. 迷ったら告知する
  4. 特殊清掃の記録(請求書・写真)を揃える
  5. においと痕跡を消す
  6. 告知内容を仲介会社とすり合わせ、書面に残す
  7. 仲介と買取、両方の金額を取る
  8. 特例の期限(3年)から逆算して決める

孤独死のすべてが告知の対象になるわけではありません。 一方で、特殊清掃が入ったなら、告げるのが前提です。

そして、告知しても売れます。 売れないのは「隠そうとして、動けなくなっている」場合です。

実家じまい全体の進め方は実家じまいの進め方に、特殊清掃の費用は孤独死の特殊清掃費用に、売れないときの立て直しは実家が売れないにまとめています。

告知が必要でも、買い手はいる

訳あり物件を専門に扱う買取窓口なら、告知事項を前提に値段を出します。 契約不適合責任を免責にしてもらえるのも、この売り方の利点です。査定は無料で、決めていなくても取れます。

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この記事について

執筆:葉山 湊(はやま みなと)

自身の家族の実家じまいを経験し、そのときに「どこにも書かれていなかったこと」を出発点にこのサイトを立ち上げました。司法書士・税理士・宅地建物取引士などの資格は保有していません。制度や法令については、必ず一次情報(国土交通省・法務省・国税庁)にあたって記事に反映しています。

本記事の主な出典は次のとおりです。

・人の死の告知の考え方:国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(2021年10月)

・重要な事実の不告知の禁止:宅地建物取引業法 第47条第1号

・契約不適合責任・期間制限・免責特約の限界:民法 第562条・第566条・第572条

・被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」

・住宅用地の課税標準の特例:地方税法 第349条の3の2

価格の下落幅に公的な統計はなく、本記事の数値は取引実務で言われている目安です。本記事の内容は2026年9月7日時点の公表情報にもとづきます。 法務・税務の判断は個別事情によって変わります。実行前に必ず専門家にご確認ください。

この記事を書いた人
葉山 湊実家じまいガイド運営者

企業の財務・事業の調査(デューデリジェンス)や資産の評価を本業としています。費用は内訳と前提条件に分けて示し、制度や税金は法令と国税庁・法務省・国土交通省・各自治体などの一次情報で確かめて、出典と情報の時点を記事に明記しています。

税理士・司法書士・宅地建物取引士などの資格は保有していません。個別の税務・法律の判断は、専門家にご確認ください。

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