相続税の申告は、自分でもできます。税理士に依頼する義務はありません。
ただし、自分でやって問題ないケースと、やるべきでないケースがはっきり分かれます。分かれ目は「財産の種類」です。預貯金と上場株式だけなら自力でも十分。実家などの不動産があると、難易度が一気に上がります。
この記事では、自分でできるかどうかの判断基準を示したうえで、実際の手順、必要書類、つまずきやすいポイントを整理します。そのうえで、税理士に頼んだ場合との損得も数字で比べます。

- そもそも申告が必要か
- 自分でできるかの判断基準
- 自分で申告する手順
- 必要書類の一覧
- 土地の評価を自分でやってみる
- つまずきやすい5つのポイント
- 相続税の計算を実際にやってみる
- 小規模宅地等の特例を詳しく
- 配偶者の税額軽減と二次相続
- 自分でやる場合の実費
- 税理士に頼んだ場合との比較
- 申告書の書き方|どの表から埋めるか
- 提出後の流れ
- 税務調査のリスク
- 税務調査で何を聞かれるか
- 自分で申告してよくある誤り
- 税務署の無料相談を活用する
- 建物と借地・貸家の評価
- 農地・山林がある場合
- 税額を下げる控除を見落とさない
- 途中まで自分でやって、途中から頼む
- 納税資金をどう用意するか
- 相続税がかかりそうかを早めに把握する
- よくある質問
- 自己判定チェックリスト
- まとめ
そもそも申告が必要か

まずここです。多くの人は申告そのものが不要です。
基礎控除を超えるかどうか
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
| 5人 | 6,000万円 |
遺産の総額がこの金額以下なら、申告も納税も不要です。
特例を使う場合は申告が必要
ここを間違える方が非常に多くいます。
小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使って税額がゼロになる場合でも、申告は必要です。
| 状況 | 申告 | 納税 |
|---|---|---|
| 遺産が基礎控除以下 | 不要 | 不要 |
| 特例を使って税額ゼロ | 必要 | 不要 |
| 税額が出る | 必要 | 必要 |
「税金がかからないから申告しなくていい」は誤りです。申告しなければ特例が適用されず、本来ゼロだったはずの税額を課されることになります。
期限は10か月
相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の住所地を管轄する税務署へ提出します。
自分でできるかの判断基準

自分でできるケース
次のすべてに当てはまるなら、自力での申告は現実的です。
- 遺産が預貯金と上場株式だけ
- 相続人が1〜2人で争いがない
- 遺産総額が基礎控除を少し超える程度
- 小規模宅地等の特例を使わない
- 生前贈与が複雑でない
このパターンなら、税務署の相談窓口を利用しながら進められます。
税理士に頼むべきケース
ひとつでも当てはまるなら、依頼を検討してください。
| 条件 | 理由 |
|---|---|
| 不動産がある(とくに土地) | 評価方法が複雑で、減額要素の判断に専門知識が要る |
| 小規模宅地等の特例を使う | 要件判定を誤ると80%減額を失う |
| 配偶者の税額軽減を使う | 二次相続まで見た配分の判断が必要 |
| 非上場株式がある | 評価が極めて複雑 |
| 相続人の間で意見が割れている | 分割方法で税額が変わる |
| 遺産総額が1億円を超える | 税務調査の対象になりやすい |
| 申告期限まで3か月を切っている | 資料収集が間に合わない |
実家がある時点で慎重に
実家じまいの文脈で読んでいる方は、ほぼ確実に「不動産がある」に該当します。
土地の評価は、路線価に面積を掛けるだけでは終わりません。
- 間口が狭い、奥行きが長い
- 不整形地(旗竿地、三角地)
- 傾斜地、高低差がある
- 私道に接している
- 高圧線が上を通っている
- 幅が4m未満の道路に接している(セットバックが必要)
これらはすべて減額要素です。知らずに評価すると、本来より高い税額を払うことになります。
自分で申告する手順

全体の流れ
| 順番 | やること | 目安の期間 |
|---|---|---|
| 1 | 相続人を確定する(戸籍収集) | 1〜2か月 |
| 2 | 財産と債務を洗い出す | 1〜2か月 |
| 3 | 財産を評価する | 1〜2か月 |
| 4 | 遺産分割協議をまとめる | 1〜3か月 |
| 5 | 申告書を作成する | 2週間〜1か月 |
| 6 | 申告・納付 | — |
10か月はまったく余裕がありません。亡くなってから3か月以内に着手しないと厳しくなります。
ステップ1|相続人を確定する
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本と、相続人全員の現在の戸籍が必要です。
昭和・平成の改製をまたぐと5〜10通になることも珍しくありません。2024年3月から戸籍の広域交付が始まり、本籍地以外の市区町村でもまとめて請求できるようになりました(ただし窓口に来られるのは本人・配偶者・直系尊属・直系卑属のみ、郵送・代理不可)。
集めたら、法務局で法定相続情報一覧図を作ってもらうと以降の手続きが楽になります。無料です。
ステップ2|財産と債務を洗い出す
| 財産 | 調べ方 |
|---|---|
| 不動産 | 名寄帳(市区町村)で漏れなく把握 |
| 預貯金 | 残高証明書(死亡日時点で発行) |
| 有価証券 | 証券会社の残高証明書、ほふりへの開示請求 |
| 生命保険 | 保険証券、生命保険契約照会制度 |
| 借入金 | 信用情報機関への開示請求 |
名寄帳は見落としを防ぐ切り札です。その市区町村内にある被相続人名義の不動産が一覧で出ます。固定資産税の納税通知書には、非課税の私道などが載っていないことがあるためです。
ステップ3|財産を評価する
ここが最大の難所です。
| 財産 | 評価方法 |
|---|---|
| 土地(市街地) | 路線価 × 各種補正率 × 面積 |
| 土地(郊外) | 固定資産税評価額 × 倍率 |
| 建物 | 固定資産税評価額がそのまま |
| 預貯金 | 死亡日の残高+既経過利息 |
| 上場株式 | 4つの価額のうち最も低いもの |
| 生命保険金 | 受取額 −(500万円 × 法定相続人の数) |
| 死亡退職金 | 同上 |
上場株式は、①死亡日の終値、②死亡月の平均、③前月の平均、④前々月の平均のうち最も低い価額を選べます。
ステップ4|遺産分割協議
誰が何を取得するかを決め、遺産分割協議書を作成します。相続人全員が署名し、実印を押して印鑑証明書を添付します。
分割が決まらないと、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減が使えません。間に合わない場合は、法定相続分で申告し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付します。これを忘れると、後から特例を使えなくなります。
ステップ5|申告書を作成する
国税庁の「相続税の申告書等の様式一覧」から様式をダウンロードするか、確定申告書等作成コーナーを使います。
主に使う様式は次のとおりです。
| 様式 | 内容 |
|---|---|
| 第1表 | 相続税の申告書(課税価格・税額) |
| 第2表 | 相続税の総額の計算書 |
| 第9表 | 生命保険金などの明細書 |
| 第11表 | 相続税がかかる財産の明細書 |
| 第11・11の2表の付表1 | 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書 |
| 第13表 | 債務及び葬式費用の明細書 |
| 第15表 | 相続財産の種類別価額表 |
| 土地及び土地の上に存する権利の評価明細書 | 土地の評価計算 |
ステップ6|申告・納付
- 提出先は被相続人の住所地を管轄する税務署(相続人の住所地ではない)
- 相続人が複数でも、1通にまとめて連署できる
- 納付は現金一括が原則。金融機関、税務署、コンビニ、クレジットカード、e-Taxで可能
必要書類の一覧

集めるだけで1〜2か月かかります。早めに着手してください。
身分関係の書類
| 書類 | 取得先 | 費用 |
|---|---|---|
| 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 | 本籍地の市区町村 | 1通450〜750円 |
| 被相続人の住民票の除票 | 最後の住所地 | 300円前後 |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 各本籍地 | 1通450円 |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 各住所地 | 300円前後 |
| 法定相続情報一覧図 | 法務局 | 無料 |
| 遺産分割協議書 | 自作 | — |
| 遺言書がある場合はその写し | — | — |
不動産の書類
| 書類 | 取得先 |
|---|---|
| 固定資産評価証明書(死亡年度のもの) | 市区町村 |
| 名寄帳 | 市区町村 |
| 登記事項証明書(全部事項証明書) | 法務局 |
| 公図・地積測量図 | 法務局 |
| 賃貸借契約書(貸している場合) | 手元 |
公図と地積測量図は土地の評価で必須です。形状が分からないと不整形地補正が計算できません。
金融資産の書類
| 書類 | 注意点 |
|---|---|
| 残高証明書 | 「死亡日時点」で発行してもらう |
| 既経過利息計算書 | 定期預金がある場合 |
| 過去の通帳(3〜5年分) | 税務署は必ず見る |
| 証券会社の残高証明書 | 死亡日時点の時価 |
| 生命保険金の支払通知書 | 保険会社から |
| 死亡退職金の支払調書 | 勤務先から |
過去の通帳は「なぜ必要なのか」と思われがちですが、名義預金や生前贈与の有無を確認するために税務署が見る資料です。自分でも先に確認しておくべきです。
債務・葬式費用の書類
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 借入金の残高証明書 | 住宅ローン、事業資金など |
| 未払いの医療費・税金の領収書 | 債務控除の対象 |
| 葬儀費用の領収書 | 通夜・告別式・火葬は債務控除の対象 |
| お布施の記録 | 領収書がなくてもメモで可 |
香典返し、初七日以降の法要、墓石の購入は債務控除の対象外です。混同しないでください。
土地の評価を自分でやってみる

「自分でできるか」を判断するために、実際の手順を見ておきましょう。
ステップ1|路線価方式か倍率方式かを調べる
国税庁の財産評価基準書(路線価図・評価倍率表)で、その土地の所在地を探します。
- 路線価が設定されている……路線価方式
- 路線価がない……倍率方式(固定資産税評価額 × 倍率)
倍率方式なら計算は簡単です。固定資産評価証明書の価額に倍率を掛けるだけ。郊外や農村部の多くはこちらです。
ステップ2|路線価方式の基本計算
評価額 = 路線価 × 奥行価格補正率 × 地積
路線価図には「300D」のような表記があります。300は1㎡あたり30万円、Dは借地権割合を示します。
ステップ3|補正を適用する
ここからが難所です。
| 補正 | 適用する場面 |
|---|---|
| 奥行価格補正 | 奥行きが標準より長い・短い |
| 側方路線影響加算 | 角地(評価が上がる) |
| 二方路線影響加算 | 表と裏に道路(評価が上がる) |
| 間口狭小補正 | 間口が狭い |
| 奥行長大補正 | 間口に対して奥行きが長い |
| 不整形地補正 | 整形でない土地(最大40%減) |
| がけ地補正 | 傾斜地を含む |
| 規模格差補正 | 三大都市圏500㎡以上、それ以外1,000㎡以上 |
補正率は国税庁が公表する表から読み取ります。複数の補正が重なると計算が複雑になります。
ステップ4|個別の減額要素を検討する
ここが専門家との差が出るところです。
| 減額要素 | 内容 |
|---|---|
| セットバック | 幅4m未満の道路に接する場合、後退部分は70%減 |
| 都市計画道路予定地 | 地区区分と容積率に応じて減額 |
| 私道 | 特定の人が使う私道は70%減、不特定多数が通る私道は評価しない |
| 高圧線下 | 建築制限に応じて減額 |
| 埋蔵文化財包蔵地 | 発掘調査費用相当額を控除できる場合がある |
| 土壌汚染 | 浄化費用相当額を控除 |
| 騒音・悪臭 | 利用価値が著しく低下している場合10%減 |
これらは現地を見て、役所で調べないと分かりません。自分でやる場合、ここを取りこぼすのが最大のリスクです。
実際にやってみる価値はある
いきなり税理士に丸投げするより、一度自分で計算してみることをおすすめします。
- 概算の税額が分かり、依頼するかどうかの判断材料になる
- 税理士に相談するとき、話が早い
- 提示された見積もりが妥当か判断できる
国税庁の「土地及び土地の上に存する権利の評価明細書」は記入例つきで公開されています。1時間ほど向き合えば、自分の土地がどのくらい複雑かは見えてきます。
つまずきやすい5つのポイント

1. 土地の評価
繰り返しになりますが、ここが最大の難所です。
路線価図を見て「路線価 × 面積」で計算しただけでは、減額要素をすべて取りこぼします。
| 減額要素 | 補正の例 |
|---|---|
| 奥行きが長い・短い | 奥行価格補正 |
| 間口が狭い | 間口狭小補正 |
| 不整形地 | 不整形地補正(最大40%減) |
| 2つの道路に面している | 側方路線影響加算(増額) |
| がけ地がある | がけ地補正 |
| 4m未満の道路に接する | セットバック部分は70%減 |
| 高圧線下 | 区分地上権に準ずる地役権の目的となっている土地としての減額 |
現地を見ないと分からない減額要素が多いのがポイントです。図面と路線価図だけで評価すると、まず取りこぼします。
2. 名義預金
子や孫の名義になっているが、実質は被相続人が管理していた預金です。相続財産に含めて申告する必要があります。
判断基準は次のとおりです。
- 誰が資金を出したか
- 通帳と印鑑を誰が管理していたか
- 名義人が贈与を認識していたか
- 名義人が自由に使えたか
税務調査でもっとも指摘される項目です。「子の名義だから関係ない」は通用しません。
3. 生前贈与の持ち戻し
相続開始前の一定期間内の贈与は、相続財産に加算されます。
| 贈与の時期 | 加算期間 |
|---|---|
| 2023年12月31日以前の贈与 | 3年 |
| 2024年1月1日以降の贈与 | 段階的に7年へ延長 |
2024年の改正で加算期間が3年から7年に延長されました(経過措置あり)。延長された4年分については、合計100万円まで加算されません。
4. 小規模宅地等の特例の要件判定
330㎡まで評価額が80%減という強力な特例ですが、要件が細かい。
| 取得者 | 主な要件 |
|---|---|
| 配偶者 | 無条件で適用可 |
| 同居していた親族 | 申告期限まで居住・保有を継続 |
| 別居の親族(家なき子) | 配偶者・同居相続人がいない/過去3年間、自己または配偶者等の所有する家に住んでいない/申告期限まで保有 |
とくに「家なき子特例」は、平成30年度の改正で適用範囲が狭まりました。自己判断は危険です。
5. 分割が終わらないまま期限を迎える
10か月で遺産分割がまとまらないケースは珍しくありません。
その場合、法定相続分で申告・納税し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付します。分割が済んだら更正の請求をして払いすぎた分を取り戻します。
この見込書を忘れると、後から特例を使えません。
相続税の計算を実際にやってみる

相続税の計算は独特です。「各人が取得した財産に直接税率を掛ける」のではありません。
計算の4ステップ
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 各人の課税価格を合計し、課税価格の合計額を出す |
| 2 | 基礎控除を引いて課税遺産総額を出す |
| 3 | 法定相続分で按分し、各人の税額を計算して合計 → 相続税の総額 |
| 4 | 実際の取得割合で按分し、各人の納付額を出す |
ステップ3が独特です。実際にどう分けたかに関係なく、いったん法定相続分で分けたものとして総額を計算します。これにより、分け方によって総額が変わらない仕組みになっています。
相続税の速算表
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | — |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
計算例|遺産7,000万円、相続人は子2人
ステップ1|課税価格の合計額
| 財産 | 評価額 |
|---|---|
| 実家(土地) | 3,000万円 |
| 実家(建物) | 500万円 |
| 預貯金 | 3,000万円 |
| 生命保険金(受取1,500万円 − 非課税1,000万円) | 500万円 |
| 葬式費用 | −200万円 |
| 課税価格の合計額 | 6,800万円 |
生命保険金の非課税枠は500万円 × 法定相続人の数です。子2人なら1,000万円。
ステップ2|課税遺産総額
6,800万円 −(3,000万円 + 600万円 × 2人)= 2,600万円
ステップ3|相続税の総額
法定相続分(子2人なら各1/2)で按分します。
- 各人の取得金額:2,600万円 ÷ 2 = 1,300万円
- 各人の税額:1,300万円 × 15% − 50万円 = 145万円
- 相続税の総額:145万円 × 2 = 290万円
ステップ4|各人の納付額
実家(3,500万円)を長男、預貯金と保険金(3,500万円)を次男が取得したとします。取得割合は50%ずつ。
- 長男:290万円 × 50% = 145万円
- 次男:290万円 × 50% = 145万円
小規模宅地等の特例を使うと
長男が実家に同居していて特例を使えるとします。
- 土地3,000万円 × 80%減 = 600万円に評価減
- 課税価格の合計額:6,800万円 − 2,400万円 = 4,400万円
- 課税遺産総額:4,400万円 − 4,200万円 = 200万円
- 各人の取得金額:100万円 → 税額10万円ずつ
- 相続税の総額:20万円
290万円が20万円になりました。差は270万円です。この一手だけで、税理士報酬を十分に上回ります。
小規模宅地等の特例を詳しく

自分で申告する場合、ここが最大の関門です。
3つの区分
| 区分 | 限度面積 | 減額割合 |
|---|---|---|
| 特定居住用宅地等(自宅) | 330㎡ | 80% |
| 特定事業用宅地等(店舗・工場) | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用宅地等(アパート・駐車場) | 200㎡ | 50% |
実家じまいで関わるのは、ほぼ特定居住用宅地等です。
誰が取得するかで要件が違う
配偶者が取得する場合
取得者ごとの要件はありません。無条件で適用できます。相続後すぐ売っても構いません。
同居していた親族が取得する場合
- 相続開始の直前から申告期限まで引き続き居住
- 相続開始時から申告期限まで保有
10か月間は住み続け、売らないことが条件です。
別居の親族が取得する場合(家なき子特例)
次のすべてを満たす必要があります。
- 日本国籍を有する
- 被相続人に配偶者がいない
- 相続開始時に他に同居相続人がいない
- 過去3年間、自己・配偶者・三親等内の親族・特別の関係がある法人が所有する家屋に住んでいない
- 相続開始時に住んでいる家屋を、過去に所有していたことがない
- その宅地を申告期限まで保有
4と5は平成30年度の改正で追加されました。「持ち家を子に売って賃貸に住む」といった形式的な回避を封じるためです。
老人ホーム入所の場合
被相続人が老人ホームに入所していた場合も、次を満たせば適用できます。
- 要介護認定・要支援認定等を受けていた
- 認定された老人ホーム等に入所していた
- 入所後、その家屋を事業・貸付け・他人の居住に使っていない
実家じまいの相談で非常に多いパターンなので、必ず確認してください。
申告期限までの保有・居住が要件
配偶者以外が取得する場合、申告期限(10か月)まで保有しなければなりません。
「早く現金化したい」と10か月以内に売ると、80%減額を失います。実家の売却は10か月を過ぎてから、が原則です。
売却のタイミングと税金の関係は実家の売却は相続前と相続後どちらが得かにまとめています。
配偶者の税額軽減と二次相続
1億6,000万円まで非課税
配偶者が取得した財産については、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額まで相続税がかかりません。
多くの家庭では、これを使えば配偶者の税額はゼロになります。
使いすぎると二次相続で損をする
ここが落とし穴です。
一次相続で母がすべて相続すれば、税額はゼロになります。しかし母が亡くなる二次相続では、
- 相続人が1人減るため、基礎控除が600万円減る
- 配偶者の税額軽減が使えない
- 財産が集中しているため税率が上がる
一次と二次の合計で見ると、母が全部相続したほうが高くつくことがあります。
数字で見る
父の遺産1億円、相続人は母と子1人。母には固有の財産2,000万円というケースで比べます。
| 配分 | 一次相続の税額 | 二次相続の税額 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 母が全額(1億円) | 0円 | 約1,220万円 | 約1,220万円 |
| 母5,000万・子5,000万 | 約385万円 | 約320万円 | 約705万円 |
| 子が全額 | 約1,220万円 | 約0円 | 約1,220万円 |
半分ずつに分けたほうが、合計で500万円以上安くなりました。
もちろん、母の生活資金や実家の居住継続といった事情が優先されます。税額だけで決める話ではありませんが、知らずに「とりあえず全部母へ」とすると損をする可能性がある、ということは押さえておいてください。
自分でやる場合の実費
| 項目 | 費用 |
|---|---|
| 戸籍謄本(5〜10通) | 3,000〜7,000円 |
| 住民票・戸籍の附票 | 1,000〜2,000円 |
| 印鑑証明書(相続人分) | 300円×人数 |
| 固定資産評価証明書 | 300〜400円×筆数 |
| 名寄帳 | 200〜400円 |
| 残高証明書 | 500〜1,000円×金融機関 |
| 登記事項証明書 | 480〜600円×筆数 |
| 合計 | 1万〜2万円 |
税理士に依頼すればこれに報酬が加わりますが、実費だけなら1万〜2万円で済みます。
税理士に頼んだ場合との比較

報酬の相場
一般的な相場は遺産総額の0.5〜1.0%です。
| 遺産総額 | 報酬の目安 |
|---|---|
| 4,000万円 | 20万〜40万円 |
| 5,000万円 | 25万〜50万円 |
| 7,000万円 | 35万〜70万円 |
| 1億円 | 50万〜100万円 |
内訳や加算報酬の詳細は相続税の税理士費用相場にまとめています。
損得を数字で見る
遺産6,000万円(実家3,000万円+預貯金3,000万円)、相続人は子2人というケースで比べます。
| 自分で申告 | 税理士に依頼 | |
|---|---|---|
| 土地の評価額 | 3,000万円(補正なし) | 2,400万円(不整形地・間口狭小の補正) |
| 小規模宅地等の特例 | 適用漏れ | −1,920万円(80%減) |
| 課税価格 | 6,000万円 | 3,480万円 |
| 基礎控除 | −4,200万円 | −4,200万円 |
| 課税遺産総額 | 1,800万円 | 0円 |
| 相続税の総額 | 約180万円 | 0円 |
| 費用 | 2万円 | 35万円 |
| 合計負担 | 約182万円 | 35万円 |
差は約147万円。実家がある場合、報酬を払っても税理士に頼んだほうが安く済むことが多いのはこのためです。
もちろん、預貯金だけで特例も使わないなら自分でやったほうが安くなります。分かれ目は「不動産があるか」です。
申告書の書き方|どの表から埋めるか

申告書は第1表から順に書くものではありません。明細から積み上げて、最後に第1表へ集約します。
書く順番
| 順番 | 様式 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 土地及び土地の上に存する権利の評価明細書 | 土地の評価計算 |
| 2 | 第11・11の2表の付表1 | 小規模宅地等の特例の計算 |
| 3 | 第9表 | 生命保険金などの明細 |
| 4 | 第10表 | 退職手当金などの明細 |
| 5 | 第11表 | 相続税がかかる財産の明細(誰が何を取得したか) |
| 6 | 第13表 | 債務及び葬式費用の明細 |
| 7 | 第15表 | 相続財産の種類別価額表 |
| 8 | 第14表 | 生前贈与財産の加算 |
| 9 | 第1表 | 課税価格と各人の税額 |
| 10 | 第2表 | 相続税の総額の計算 |
| 11 | 第5表 | 配偶者の税額軽減 |
実質的な中心は第11表です。ここに「誰が」「どの財産を」「いくらで」取得したかを1行ずつ書きます。
つまずきポイント
第11表と第15表の数字が合わない
第15表は財産の種類別に集計する表です。第11表の合計と一致しなければどこかが間違っています。検算に使えます。
第1表と第2表の往復
第1表の課税価格を出す → 第2表で総額を計算する → 第1表に戻って各人の税額を按分する、という順で往復します。一度で書き切れません。
小規模宅地等の特例の記入
第11・11の2表の付表1で減額後の価額を計算し、その金額を第11表に転記します。ここを間違えると全体がずれます。
作成ツールを使う
国税庁の確定申告書等作成コーナーは相続税に対応しています。画面の指示に従って入力すれば計算は自動です。
ただし土地の評価額は自分で計算して入力する必要があります。「評価が難しい」という本質的な問題は解決しません。
市販の相続税申告ソフト(1万〜3万円程度)もあり、土地の補正計算まで支援してくれるものがあります。自分でやると決めたなら、検討する価値があります。
提出後の流れ

納付
申告書の提出と同じ期限(10か月)までに納付します。申告だけして納付を忘れると延滞税がかかります。
| 納付方法 | 特徴 |
|---|---|
| 金融機関・税務署の窓口 | 納付書に記入して現金で |
| コンビニ | 30万円以下のみ |
| クレジットカード | 決済手数料がかかる |
| e-Tax(ダイレクト納付) | 事前登録が必要 |
| スマホアプリ納付 | 30万円以下 |
税務署からの連絡
提出後、内容に不明点があると電話や文書で問い合わせが来ます。これは調査ではありません。資料を追加提出すれば済むことがほとんどです。
調査が入るタイミング
税務調査は、申告から1〜2年後に行われることが多いとされています。申告して何もなかったからといって、すぐに安心はできません。
還付になる場合
配偶者の税額軽減などで納めすぎになった場合、申告書に還付口座を記入すれば還付されます。1〜2か月で振り込まれます。
税務調査のリスク
相続税は調査割合が高い
相続税は、所得税など他の税目と比べて税務調査の割合が高いとされています。財産の把握漏れが起きやすく、金額も大きいためです。
調査で指摘されやすいのは次の項目です。
| 指摘項目 | 内容 |
|---|---|
| 名義預金 | 最多。家族名義の預金 |
| 生前贈与の申告漏れ | 持ち戻し期間内の贈与 |
| 手許現金 | 死亡直前に引き出した現金 |
| 有価証券の漏れ | 把握していない証券口座 |
| 土地の評価誤り | 減額要素の過大適用、地目の判定 |
ペナルティ
| 種類 | 税率 |
|---|---|
| 過少申告加算税 | 10〜15%(自主的な修正申告なら不要) |
| 無申告加算税 | 15〜30%(自主的な期限後申告なら5%) |
| 重加算税 | 35〜40% |
| 延滞税 | 法定納期限の翌日から日割り |
書面添付制度
税理士に依頼した場合、書面添付制度を使える事務所があります。税理士が「この申告書はこう検討して作りました」という書面を添付する制度です。
これがあると、税務署はいきなり調査に入らず、まず税理士に意見聴取を行います。追加報酬は5万〜10万円が目安ですが、調査に入られる確率を下げる効果が期待できます。
自分で申告する場合、この制度は使えません。
税務調査で何を聞かれるか

実際の調査は、被相続人の自宅で半日から1日かけて行われるのが一般的です。
聞かれること
| 質問 | 意図 |
|---|---|
| 被相続人の職業・経歴 | どのくらいの収入があったかの推定 |
| 趣味・付き合い | 骨董品や会員権の有無 |
| 亡くなる前の入院・介護の状況 | 誰が通帳を管理していたか |
| 配偶者・子の職業と収入 | 名義預金の判定 |
| 家族名義の預金の資金源 | 同上 |
| 貸金庫の有無 | 申告漏れの財産 |
| 生前の大きな支出 | 手許現金、生前贈与 |
名義預金と判定されやすいパターン
- 専業主婦の妻名義で、収入に見合わない多額の預金がある
- 子や孫の名義だが、通帳と印鑑を被相続人が管理していた
- 名義人が口座の存在を知らなかった
- 印鑑が被相続人のものと同じ
「贈与したつもり」でも、贈与契約書がなく、名義人が自由に使えていなければ名義預金と判定されます。
準備しておくこと
自分で申告する場合でも、次を用意しておけば慌てません。
- 被相続人と相続人全員の過去5年分の通帳
- 大きな入出金についての説明メモ
- 生前贈与があれば贈与契約書と贈与税の申告書
- 貸金庫の中身のリスト
調査が入りやすい申告
| 特徴 | 理由 |
|---|---|
| 遺産総額が大きい | 金額が大きいほど対象になりやすい |
| 家族名義の預金が多い | 名義預金の疑い |
| 自宅以外の不動産が多い | 評価の誤りが起きやすい |
| 海外資産がある | 把握が難しい |
| 申告書の記載が不自然 | 添付書類の不足、計算の誤り |
税理士が作成し、書面添付制度を使った申告は、いきなり調査に入られる確率が下がるとされています。自分で申告する場合、この制度は使えません。
自分で申告してよくある誤り
1. 申告が必要なのに「不要」と判断した
特例で税額ゼロになるケースを「申告不要」と誤解する例が最多です。特例の適用には申告が要件です。
2. 財産の把握漏れ
| 漏れやすい財産 | 見つけ方 |
|---|---|
| 私道 | 名寄帳で確認 |
| 田舎の山林・農地 | 名寄帳、固定資産税の非課税分に注意 |
| ネット銀行・ネット証券 | メール、スマホのアプリ |
| 貸付金 | 借用書、通帳の記録 |
| 未収の家賃・配当 | 契約書、通知書 |
| ゴルフ会員権・リゾート会員権 | 権利証書、年会費の引き落とし |
3. 債務控除の漏れ
葬式費用、未払いの医療費、未払いの固定資産税・住民税は債務控除の対象です。領収書を集めておかないと引けません。
4. 生命保険の非課税枠を使い忘れた
500万円 × 法定相続人の数まで非課税です。受取額をそのまま計上すると、余分な税金を払うことになります。
5. 土地の評価が雑
- 補正を適用していない
- 地積を登記簿の面積のまま使った(実測と違うことがある)
- 私道を評価しなかった/逆に宅地並みに評価した
- 貸家建付地の減額を忘れた
6. 相続時精算課税の申告漏れ
過去に相続時精算課税を使った贈与がある場合、必ず相続財産に加算します。忘れると後から指摘されます。
税務署の無料相談を活用する
自分で申告する場合、税務署は味方になります。
相談できること
- 申告が必要かどうかの判断
- 申告書の書き方
- 添付書類の確認
- 財産評価の一般的な考え方
相談できないこと
- どちらが有利かという節税の相談
- 具体的な土地の評価額の算定
- 遺産分割の方法
税務署は「正しく申告する方法」は教えてくれますが、「あなたにとって有利な方法」は教えてくれません。ここが税理士との決定的な違いです。
利用のコツ
- 事前予約が必要(電話または国税庁のサイトから)
- 申告期限が近づく1〜2月は混雑する。早めに行く
- 財産の一覧と評価の計算過程を持参する
- 一度で終わらせようとせず、段階ごとに相談する
建物と借地・貸家の評価
土地ばかり注目されますが、建物と権利関係でも評価が変わります。
建物は固定資産税評価額そのまま
自宅の建物は、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額です。計算は不要で、固定資産評価証明書の価額を書き写すだけ。ここは簡単です。
築古の実家なら、建物の評価額は数十万〜数百万円程度に下がっていることがほとんどです。
貸家は30%減
人に貸している建物は、固定資産税評価額 × (1 − 借家権割合30%)で評価します。
固定資産税評価額500万円の貸家 → 500万円 × 0.7 = 350万円
貸家建付地はさらに減る
貸家が建っている土地(貸家建付地)は、次の式で評価します。
自用地評価額 ×(1 − 借地権割合 × 借家権割合30% × 賃貸割合)
借地権割合60%の地域で満室のアパートなら、
1 −(0.6 × 0.3 × 1.0)= 0.82 → 18%減
空室があると賃貸割合が下がり、減額幅も小さくなります。相続開始時点の入居状況で判定するため、通帳や賃貸借契約書を確認してください。
借地権も財産
被相続人が借りていた土地に家を建てていた場合、借地権という財産があります。
自用地評価額 × 借地権割合
借地権割合は路線価図の記号(A〜G)で示され、A=90%からG=30%まであります。「土地は他人のものだから関係ない」ではなく、借地権として評価して申告が必要です。
小規模宅地等の特例との関係
貸家建付地は貸付事業用宅地等として、200㎡まで50%減の対象になります。ただし、自宅(特定居住用330㎡・80%減)と併用する場合は限度面積の調整計算が必要です。
計算式は複雑なので、アパートや駐車場がある場合は自分でやるのは避けたほうが無難です。
農地・山林がある場合
地方の実家では、農地や山林が一緒に相続財産になることがよくあります。
評価方法が区分ごとに違う
| 区分 | 評価方法 |
|---|---|
| 純農地・中間農地 | 倍率方式(固定資産税評価額 × 倍率) |
| 市街地周辺農地 | 市街地農地の80% |
| 市街地農地 | 宅地比準方式(宅地としての評価 − 造成費) |
| 純山林・中間山林 | 倍率方式 |
| 市街地山林 | 宅地比準方式 |
純農地・純山林なら倍率方式で計算は簡単です。固定資産評価証明書の価額に倍率を掛けるだけ。
一方、市街地農地・市街地山林は宅地並みに評価してから造成費を引くため、計算が複雑になります。
農地の納税猶予
相続人が農業を続けるする場合、農地等の納税猶予という制度があります。一定の要件のもとで相続税の納付が猶予され、終身営農などの条件を満たせば免除されます。
ただし要件が厳しく、途中でやめると猶予されていた税額と利子税を一括で納めることになります。適用を検討するなら必ず専門家に相談してください。
名寄帳で漏れを防ぐ
農地や山林は、固定資産税が非課税または免税点未満で、納税通知書に載っていないことがあります。
名寄帳を取れば、その市区町村内の被相続人名義の不動産がすべて出ます。複数の市町村に散らばっている場合は、それぞれで取得してください。
「知らない土地が後から出てきた」は、修正申告の原因として非常に多いパターンです。
税額を下げる控除を見落とさない
基礎控除と小規模宅地等の特例以外にも、税額から直接引ける控除があります。自分で申告する場合、これらの見落としが起きがちです。
| 控除 | 内容 |
|---|---|
| 配偶者の税額軽減 | 1億6,000万円または法定相続分まで非課税 |
| 未成年者控除 | (18歳 − 相続時の年齢)× 10万円 |
| 障害者控除 | (85歳 − 相続時の年齢)× 10万円(特別障害者は20万円) |
| 相次相続控除 | 10年以内に続けて相続があった場合 |
| 贈与税額控除 | 生前贈与加算された分の贈与税を控除 |
| 外国税額控除 | 海外で相続税に相当する税を納めた場合 |
未成年者控除・障害者控除は繰り越せる
これらの控除は、本人の税額から引ききれない場合、扶養義務者の税額から引けるという特徴があります。
たとえば10歳の子の控除額は(18 − 10)× 10万円 = 80万円。子の税額が30万円なら、残り50万円を母や兄弟の税額から差し引けます。
障害者控除は金額が大きくなりやすいのも特徴です。40歳の特別障害者なら(85 − 40)× 20万円 = 900万円。家族全体の税額を大きく下げられます。
相次相続控除
父が亡くなって10年以内に母も亡くなった、というケースで使えます。短期間に二度課税されることの負担を和らげる制度です。
一次相続で納めた相続税の一部を、二次相続の税額から控除できます。自分で申告する場合、この存在自体を知らずに使わないことが多い控除です。
適用順序がある
これらの控除は、適用する順番が決まっています。
- 贈与税額控除
- 配偶者の税額軽減
- 未成年者控除
- 障害者控除
- 相次相続控除
- 外国税額控除
順番を間違えると税額が変わることがあります。申告書の第4表・第5表・第6表で計算しますが、複数の控除が絡む場合は専門家の確認を受けてください。
途中まで自分でやって、途中から頼む
「全部自分でやる」か「全部頼む」かの二択ではありません。分担するという選択肢があります。
分担しやすい作業
| 作業 | 自分でやりやすさ |
|---|---|
| 戸籍の収集 | ◎ 手間はかかるが難しくない |
| 残高証明書の取得 | ◎ |
| 名寄帳・登記事項証明書の取得 | ◎ |
| 財産の一覧表を作る | ○ |
| 通帳のコピーと整理 | ◎ |
| 土地の評価 | × 専門知識が必要 |
| 小規模宅地等の特例の判定 | × |
| 二次相続まで見た配分の検討 | × |
| 申告書の作成 | △ |
資料収集を自分でやるだけで、報酬が下がる事務所もあります。「資料は揃えるので、評価と申告書だけお願いしたい」と相談してみてください。
部分的な依頼
- 土地の評価だけ依頼する(10万〜20万円程度)
- 二次相続のシミュレーションだけ依頼する
- 作成した申告書のチェックだけ依頼する(5万〜15万円程度)
対応してくれるかは事務所によりますが、聞いてみる価値はあります。
期限が迫っているとき
申告期限まで3か月を切っている場合、自分でやる選択肢は現実的ではありません。
- 戸籍の収集だけで1〜2か月
- 残高証明書の発行に2週間〜1か月
- 土地の評価に1〜2か月
この段階なら、迷わず税理士に依頼してください。期限に間に合わないと、無申告加算税と延滞税に加え、特例が使えなくなるリスクがあります。
納税資金をどう用意するか
相続税は現金一括納付が原則です。「実家はあるが現金がない」という状況は珍しくありません。
選択肢は4つ
| 手段 | 特徴 |
|---|---|
| 手元の預貯金で納付 | もっとも単純。ただし遺産分割が終わっている必要がある |
| 実家を売却して納付 | 実務でもっとも多い。10か月以内の現金化が課題 |
| 延納(分割払い) | 最長20年。利子税がかかり、担保も必要 |
| 物納(不動産などで納付) | 要件が厳しく、実務では稀 |
預貯金の仮払い制度
遺産分割前でも、口座残高 × 1/3 × 法定相続分(1金融機関150万円が上限)まで引き出せます。葬儀費用や当面の納税資金には使えますが、金額が限られます。
延納の要件
- 納付すべき相続税額が10万円を超える
- 金銭で一時に納付することが困難
- 担保を提供する(延納税額100万円以下かつ期間3年以下なら不要)
- 申告期限までに延納申請書を提出する
利子税の割合は財産に占める不動産の割合によって変わります。申告期限を過ぎてからでは申請できません。
実家の売却で納税する場合
もっとも現実的な手段ですが、時間との勝負になります。
| 経過 | やること |
|---|---|
| 0〜3か月 | 相続人の合意、相続放棄の判断 |
| 3〜5か月 | 相続登記(売却には登記が必須) |
| 5〜6か月 | 査定・媒介契約 |
| 6〜9か月 | 売却活動 |
| 9〜10か月 | 決済・納税 |
地方の築古住宅は売却活動だけで半年から1年かかることも珍しくありません。仲介で間に合わないと判断したら、買取という選択肢もあります。価格は2〜3割下がりますが、1か月程度で決済できます。
仲介と買取の手取り比較は相続した実家におすすめの不動産一括査定サービス比較にまとめています。
小規模宅地等の特例との両立に注意
配偶者以外が実家を取得して小規模宅地等の特例を使う場合、申告期限(10か月)まで保有しなければなりません。
「特例を使って税額を下げたいが、売らないと納税できない」という板挟みになることがあります。この場合は延納の検討を含めて、早い段階で税理士に相談してください。
相続税がかかりそうかを早めに把握する

「申告が必要かどうか」は、亡くなる前でも概算できます。
手順1|法定相続人を数える
配偶者は常に相続人。第1順位は子、いなければ第2順位の親、それもいなければ第3順位の兄弟姉妹です。
養子は「実子がいる場合は1人まで、いない場合は2人まで」が基礎控除の計算に算入できます。
手順2|基礎控除額を出す
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
手順3|財産をざっくり評価する
| 財産 | 概算の出し方 |
|---|---|
| 土地 | 固定資産税評価額 ÷ 0.7 × 0.8 で路線価ベースの概算 |
| 建物 | 固定資産税評価額がそのまま |
| 預貯金 | 通帳の残高 |
| 上場株式 | 現在の時価 |
| 生命保険 | 受取額 −(500万円 × 法定相続人の数) |
| 死亡退職金 | 同上 |
土地の概算式は、固定資産税評価額が時価の約7割、路線価が時価の約8割という目安から逆算したものです。あくまで概算ですが、大きく外れることは少ない方法です。
手順4|比べる
| 結果 | 対応 |
|---|---|
| 基礎控除の8割以下 | 申告不要の可能性が高い |
| 基礎控除の8割〜1.2倍 | 境界線。専門家に確認 |
| 基礎控除の1.2倍超 | 申告が必要。早めに準備 |
境界線に近い場合は自己判断しないでください。土地の評価で下がることもあれば、名義預金や生前贈与の加算で増えることもあります。
亡くなる前にやっておくと楽なこと
- 固定資産税の納税通知書を保管しておく
- 金融機関と保険会社の一覧を作ってもらう
- 実家の購入時の売買契約書の場所を確認 (売却時の取得費で必要)
- 名義預金になりそうな口座を整理しておく
親が元気なうちにこれだけ済んでいれば、相続開始後の作業が半分になります。
よくある質問
Q. 相続人が複数いる場合、全員で申告するのですか?
1通にまとめて連署するのが一般的です。別々に提出することもできますが、財産の評価額が食い違うと税務署から問い合わせが来ます。まとめて出すほうが確実です。
Q. e-Taxで申告できますか?
できます。相続税の申告もe-Taxに対応しています。ただし添付書類が多く、PDF化して送信する手間があります。慣れていなければ紙のほうが早いこともあります。
Q. 納税資金が足りません。
延納(分割払い)と物納(不動産などで納付)の制度があります。ただし要件が厳しく、延納には利子税がかかります。実務的には、実家を売却して納税資金を作るケースが多いのが実情です。10か月以内に売る必要があるため、早めの査定が欠かせません。査定の取り方は相続した実家におすすめの不動産一括査定サービス比較を参考にしてください。
Q. 申告した後で財産が見つかりました。
修正申告をします。税務署の調査を受ける前に自主的に修正すれば、過少申告加算税はかかりません(延滞税はかかります)。
Q. 払いすぎていたことに気づきました。
更正の請求ができます。期限は法定申告期限から5年以内です。土地の評価を見直して還付を受けられるケースは実際にあり、この分野を専門にする税理士もいます。
Q. 税理士に頼むタイミングは?
早いほど有利です。相続開始から3か月以内が理想。財産の洗い出しと評価に時間がかかるうえ、遺産分割の方法によって税額が変わるためです。分割が決まってから相談すると、打てる手が限られます。
Q. 申告書は手書きでも受け付けてもらえますか?
受け付けてもらえます。国税庁のサイトから様式をPDFでダウンロードして印刷し、手書きで作成して構いません。ただし計算ミスが起きやすいため、確定申告書等作成コーナーや市販ソフトを使うほうが安全です。第1表と第2表を往復して計算する構造なので、手書きだと検算に時間がかかります。
Q. 税理士報酬は誰が払うのですか?
決まりはありませんが、相続財産から支出し、相続人で分担するのが一般的です。なお税理士報酬は相続税の債務控除の対象になりません(被相続人の債務ではないため)。誰がいくら負担するかは、遺産分割協議のなかで決めておくと後から揉めません。
Q. どの税理士に頼めばいいですか?
税理士の多くは法人税・所得税が専門で、相続税を年に数件しか扱わない事務所も珍しくありません。「相続税申告を年間何件扱っていますか」と直接聞いてください。二桁あれば十分な経験値です。選び方は相続税の税理士費用相場で詳しく解説しています。
Q. 相続人の一人が海外にいます。印鑑証明書が取れません。
サイン証明(署名証明)を在外公館で取得します。印鑑証明書の代わりになります。また住民票の代わりに在留証明が必要です。取得に時間がかかるので、早めに依頼してください。
Q. 認知症の相続人がいます。
遺産分割協議には意思能力が必要です。家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てる必要があります。申立てから選任まで1〜3か月かかるため、10か月の期限を圧迫します。この状況なら自分での申告は現実的ではありません。
Q. 相続放棄した人がいる場合、基礎控除はどうなりますか?
相続放棄をしても、基礎控除の計算では法定相続人の数に含めます。放棄がなかったものとして数えるため、基礎控除額は変わりません。生命保険金・死亡退職金の非課税枠も同様です。ただし、放棄した人は非課税枠の適用を受けられません。
Q. 遺産に借金のほうが多い場合は?
債務が財産を上回れば課税価格はゼロになり、申告は不要です。ただし相続放棄を検討すべき状況でもあります。放棄の期限は3か月なので、まずそちらを優先してください。手続きの全体像は親が死んだらやること順番にまとめています。
Q. 実家を売って納税したいのですが、間に合いますか?
地方の築古住宅は売却活動だけで半年から1年かかることも珍しくありません。10か月以内の現金化は簡単ではないので、相続開始からすぐに査定を取ってください。買取なら1か月程度で決済できることもあります。仲介と買取の手取り比較は相続した実家におすすめの不動産一括査定サービス比較で解説しています。
Q. 申告が必要かどうかも分かりません。
まず基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)と遺産の概算を比べてください。境界線に近い場合は、簡易判定だけなら無料で応じる税理士事務所も少なくありません。土地の評価で大きく下がることもあれば、名義預金で増えることもあるので、自己判断で「不要」と決めつけないでください。
自己判定チェックリスト
最後に、自分でやるかどうかを1分で判定してください。ひとつでも「はい」があれば、税理士への相談を検討してください。
財産について
- [ ] 土地がある(自宅・農地・山林・私道を含む)
- [ ] 貸している不動産がある
- [ ] 非上場株式がある
- [ ] 遺産総額が1億円を超えそう
- [ ] 家族名義の預金がある
- [ ] 海外に資産がある
特例について
- [ ] 小規模宅地等の特例を使いたい
- [ ] 配偶者の税額軽減を使いたい
- [ ] 相続時精算課税で贈与を受けたことがある
- [ ] 10年以内に別の相続があった
状況について
- [ ] 相続人の間で意見が割れている
- [ ] 相続人に未成年者・認知症の方・海外在住者がいる
- [ ] 申告期限まで3か月を切っている
- [ ] 納税資金が足りない
すべて「いいえ」だった場合
遺産が預貯金と上場株式だけで、相続人も少なく、期限にも余裕がある——この条件なら自分での申告は十分に現実的です。
税務署の無料相談を使いながら、国税庁の手引きに沿って進めてください。実費は1万〜2万円で済みます。
「はい」が1〜2個の場合
簡易試算だけでも受けてみてください。無料で対応する事務所は少なくありません。そのうえで「自分でやれそう」と判断できれば、それが最も確実です。
「はい」が3個以上の場合
依頼したほうが、報酬を払っても総額で安くなる可能性が高い状況です。とくに土地の評価と小規模宅地等の特例が絡む場合、数十万〜数百万円の差が出ます。
まとめ
相続税申告を自分でやるかどうかは、次の基準で判断してください。
- 預貯金と上場株式だけなら自分でできる。実費は1万〜2万円
- 不動産、とくに土地があるなら税理士を検討。減額要素の取りこぼしが数十万〜数百万円になる
- 小規模宅地等の特例を使うなら依頼が安全。要件判定を誤ると80%減額を失う
- 特例で税額ゼロでも、申告そのものは必要
- 期限は10か月。分割が間に合わなければ「申告期限後3年以内の分割見込書」を忘れずに
- 税務署は「正しい申告の仕方」は教えてくれるが、「有利な方法」は教えてくれない
そして、迷っているならまず簡易判定を受けてみてください。「自分でやっても大丈夫」と言ってもらえれば、そのまま進めればいいだけです。判断材料が増えることに損はありません。
この記事について
執筆:葉山 湊(はやま みなと)
自身の家族の実家じまいを経験し、そのときに「どこにも書かれていなかったこと」を出発点にこのサイトを立ち上げました。税理士・宅地建物取引士などの資格は保有していません。制度や税金については、必ず一次情報(国税庁・法務省)にあたって記事に反映しています。
本記事の主な出典は次のとおりです。
・相続税の計算:国税庁 No.4152
・相続税の税率:国税庁 No.4155
・小規模宅地等の特例:国税庁 No.4124
・配偶者の税額軽減:国税庁 No.4158
・相続税の申告のしかた:国税庁
制度・税制は改正されます。本記事の内容は2026年9月3日時点の公表情報にもとづきます。 実際の判断は、税理士など専門家にご確認ください。当サイトは個別の税務相談には応じられません。


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