相続した実家を売ろうと思って「不動産一括査定」を調べると、ランキング記事がずらりと並びます。ところがそこに書かれているのは、マイホームを売る人向けの比較がほとんどです。
相続した実家の売却は、条件がまるで違います。
この記事では、相続案件に特化した目線で一括査定サービスの選び方を整理します。ランキングを再掲するのではなく、自分の実家がどのタイプに当てはまるかで選ぶという考え方でまとめました。
先に結論だけまとめます。
- 相続案件で最重要なのは「現況(古家付き)」と「更地」の両方の査定額をもらえるか
- 田舎・空き家は大手より地域密着の会社が強い。提携社数より「その地域に加盟店があるか」
- 査定額が高い会社が良い会社とは限らない。飛び抜けて高い1社と低い1社を除いた中央値がその実家の実力値
- 営業電話は連絡方法の指定と依頼社数の絞り込みでかなり抑えられる
- 売れない田舎の家は、仲介ではなく買取・空き家バンク・国庫帰属まで含めて考える
サービスの提携社数や対応エリアは変動します。申し込み前に各社の公式サイトで最新情報を確認してください。
相続した実家の査定は、普通の売却と何が違うのか

違い1:名義が故人のままだと売れない
相続登記を済ませていないと、売買契約そのものが結べません。2024年4月から相続登記は義務化され、取得を知った日から3年以内に申請しないと10万円以下の過料の対象になります。2024年3月以前に発生した相続にもさかのぼって適用され、その場合の期限は2027年3月31日です。
査定を受けること自体は名義変更前でも可能ですが、売却活動に入る前に登記を済ませる必要があります。査定と並行して司法書士に依頼しておくと、話が決まってから慌てずに済みます。
違い2:「現況」と「更地」の2つの価格が必要
これが相続案件で最も重要な点です。
築古の実家は、古家付きで売るか、解体して更地で売るかという分岐があります。この判断には両方の査定額が要ります。
建物は壊したら戻せません。 解体を決める前に、必ず両方の価格を出してもらってください。詳しい計算方法は実家の解体費用にまとめています。
違い3:売主が現地に住んでいない
相続した実家は、多くの場合ご自身の生活圏から離れています。内覧の立ち会い、鍵の管理、草刈りや通風といった維持管理を、誰がどうやるのかが課題になります。
査定時に「遠方に住んでいます」と伝え、遠隔での売却実績があるかを確認してください。鍵を預かって内覧対応してくれる会社かどうかで、負担がまったく変わります。
違い4:税金の期限が絡む
売却時に使える特例には期限があります。
| 特例 | 期限 |
|---|---|
| 取得費加算の特例 | 相続開始から3年10か月以内 |
| 空き家の3,000万円特別控除 | 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで |
この2つは併用できません。 どちらが有利かは相続税額と譲渡益で変わるため、相続税の税理士費用相場を参考に、売る前に試算を受けてください。
期限があるということは、査定を先延ばしにするほど選べる手が減るということです。
一括査定サービスの選び方|相続案件で見るべき5点

ランキングではなく、この5点で選んでください。
1. 現況と更地の両方を査定してくれるか
備考欄に「解体すべきか判断したいので、古家付きと更地の両方の価格を知りたい」と明記します。これに応じない会社は、相続案件の経験が乏しいと考えて構いません。
2. 実家のあるエリアに加盟店があるか
提携社数1,000社でも、実家の市町村に1社もなければ意味がありません。逆に提携50社でも、その地域の有力店が入っていれば十分です。
提携社数の多さより、「その地域に何社あるか」を見てください。多くのサービスは、郵便番号や住所を入れた時点で対応可否がわかります。
3. 空き家・築古の売却実績があるか
築40年超、再建築不可、市街化調整区域といった条件は、大手が敬遠しがちです。地域密着の会社のほうが買主のあてを持っていることがあります。
4. 連絡方法を指定できるか
「メール希望」「日中は不可」といった指定ができるサービスを選ぶと、営業電話の負担が大きく減ります。
5. 買取にも対応しているか
田舎の家は仲介で売れないことがあります。買取なら価格は下がりますが確実に手放せます。仲介と買取の両方を扱う会社に当たれるかは、選択肢の広さに直結します。
サービスのタイプ別の特徴
| タイプ | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 大手中心型(大手数社に絞って依頼) | 都市部・駅近・築浅 | 地方や築古は対応外になりやすい |
| 提携社数重視型(数百〜千社規模) | 地方・郊外 | 加盟店の質にばらつきがある |
| 不動産会社直営型 | その会社の営業エリア内 | 比較にならない(1社のみ) |
| 買取特化型 | 売れない・急いで手放したい | 仲介より2〜3割安くなる |
| 空き家・訳あり特化型 | 再建築不可、事故物件、共有持分 | 一般の一括査定では断られる物件向け |
相続した地方の実家なら、提携社数重視型で地域の会社に当て、並行して買取特化型にも出すのが現実的です。
主要な一括査定サービスの特徴
サービス名を挙げて比較する記事は多くありますが、提携社数や運営会社だけを並べても選べません。ここでは「どういう物件に向くか」という軸で整理します。

大手中心型
大手不動産会社数社に一括で依頼するタイプです。
- 向く物件……都市部、駅徒歩圏、築20年以内、マンション
- 強み……買主のネットワークが広く、囲い込みのリスクが比較的低い。売却後のトラブル対応も安定
- 弱み……地方や築古は「取扱対象外」として査定を断られることがある
相続した実家が都市部にあるなら、まずここから当たって問題ありません。
提携社数重視型
数百社から千社規模の不動産会社と提携しているタイプです。
- 向く物件……地方、郊外、築古戸建て、農地付き
- 強み……大手が扱わない物件でも、地域の会社が拾ってくれる
- 弱み……加盟店の質にばらつきがある。連絡の丁寧さも会社ごとに差が出る
相続した地方の実家なら、実質的にこのタイプが本命です。
買取特化型
不動産会社が自ら買い取る前提のタイプです。
- 向く物件……売れ残っている、早く現金化したい、残置物がある、遠方で管理できない
- 強み……仲介手数料が不要。残置物ごと引き取ることが多く、遺品整理費と解体費が不要になる。契約から決済まで最短1〜2週間
- 弱み……仲介相場より2〜3割安い
空き家・訳あり特化型
再建築不可、事故物件、共有持分、借地権付きなど、一般の査定で断られる物件を扱います。
- 向く物件……接道が足りない、市街化調整区域、告知事項あり、相続人の一部が反対している
- 強み……他で断られた物件に値をつける
- 弱み……買取が中心のため価格は低め
使い分けの目安
| 実家の状態 | まず当たるべきタイプ |
|---|---|
| 都市部・築浅・駅近 | 大手中心型 |
| 地方・郊外・築古 | 提携社数重視型 |
| 半年以上売れていない | 買取特化型 |
| 再建築不可・訳あり | 空き家・訳あり特化型 |
| 判断がつかない | 提携社数重視型+買取特化型を併用 |
併用は問題ありません。 仲介と買取の両方の数字を持っていれば、「あと3か月仲介で粘って、だめなら買取」といった計画が立てられます。
査定額の読み方|高い会社が良い会社ではない

一括査定を使うと、複数社から違う金額が返ってきます。ここでの判断を間違える人が非常に多い。
なぜ査定額に差がつくのか
- 査定方法の違い……取引事例比較法、収益還元法など、根拠にする数字が違う
- 販売戦略の違い……早く売る前提か、時間をかける前提か
- 媒介契約を取りたい思惑……相場より高い数字を出して契約を取り、後から値下げを提案する手法があります
中央値で見る
4社から査定を取った例です。
| 会社 | 査定額 | 評価 |
|---|---|---|
| A社 | 980万円 | 相場より明らかに高い。要注意 |
| B社 | 720万円 | 妥当 |
| C社 | 690万円 | 妥当 |
| D社 | 540万円 | 安すぎる。買取前提か |
飛び抜けて高いA社と低いD社を除いた中央値、約705万円がこの実家の実力値です。
査定額より「根拠」を聞く
金額そのものより、なぜその金額なのかを説明できるかが重要です。
- 近隣の成約事例を何件、いつのものを参照したか
- 現況と更地でいくら差が出るか、その理由
- その金額で売れるまでの想定期間
- 売れなかった場合の次の手(値下げ幅、買取への切り替え)
これに具体的に答えられる会社が、実際に売ってくれる会社です。
仲介と買取、どちらが手取りで多いか

「買取は安い」と敬遠されがちですが、相続した実家では手取りで逆転することがあります。
モデルケースで比較する
地方の築45年・4LDK戸建て。家財が残っており、更地にしないと仲介では売りにくい、という前提です。
| 項目 | 仲介で売る | 買取で売る |
|---|---|---|
| 売却価格 | 7,000,000円 | 5,200,000円 |
| 仲介手数料 | −250,000円 | 0円 |
| 遺品整理・家財処分 | −400,000円 | 0円(現況で引取) |
| 解体費(更地渡しの場合) | −1,500,000円 | 0円 |
| 売れるまでの保有コスト(1年) | −150,000円 | −0円(1か月で決済) |
| 登記・その他諸費用 | −100,000円 | −100,000円 |
| 手取り | 4,600,000円 | 5,100,000円 |
売却価格は180万円低いのに、手取りでは買取のほうが50万円多いという結果になります。
仲介が有利なケース
- 家財がすでに片付いている
- 建物が住める状態で、古家付きのまま売れる見込みがある
- 立地が良く、3〜6か月で買主が見つかりそう
- 急いでいない
買取が有利なケース
- 家財が残っている(遺品整理費が浮く)
- 解体が必要(解体費が浮く)
- 遠方で管理・内覧対応ができない
- 半年以上売れていない
- 相続税の納税期限(10か月)が迫っている
- 相続人が複数いて、早く現金化して分けたい
最後の2つは相続案件特有です。 納税資金が必要なのに売れない、という事態を避けるには、買取という選択肢を最初から持っておく価値があります。
両方の数字を取っておく
一括査定を出すとき、仲介の査定と買取の査定を両方もらうのが理想です。多くのサービスで「買取希望」のチェック欄があります。
両方の数字が手元にあれば、「仲介で3か月やってみて、だめなら買取」という判断が数字でできます。
田舎の実家は売れるのか

「地方の築古住宅は売れない」と言われますが、正確には売れる価格帯が違うというだけです。
売れる条件
- 上下水道が整備されている
- 前面道路に接している(接道義務を満たす)
- 再建築が可能
- 生活圏(スーパー・病院・学校)にアクセスできる
これらを満たしていれば、価格次第で買主は見つかります。
売りにくい条件と対処法
| 条件 | 対処法 |
|---|---|
| 再建築不可 | 隣地所有者に打診/買取業者/訳あり物件専門 |
| 市街化調整区域 | 農家住宅の要件を満たす買主を探す/地域の会社に相談 |
| 接道が2m未満 | 隣地の一部購入で接道を確保できないか検討 |
| 傾斜地・擁壁あり | 擁壁の安全性を示す資料を用意する |
| 事故物件 | 告知したうえで訳あり物件専門業者へ |
| 共有名義で意見が割れる | 持分売却専門業者/共有物分割請求 |
「売れない」と決めつける前に、その物件を扱える業者に当たっているかを確認してください。一般の一括査定で断られても、専門業者なら値がつくことがあります。
それでも売れない場合
- 空き家バンク……自治体が運営。仲介手数料が安く済むことも
- 隣地所有者への直接打診……土地を広げたい隣人は有力な買主候補
- 買取業者……仲介より2〜3割安いが、残置物ごと引き取ることが多く、遺品整理費と解体費が不要になる
- 相続土地国庫帰属制度……建物を解体して更地にしたうえで申請。負担金は原則20万円
買取は「安く買い叩かれる」と敬遠されがちですが、遺品整理費40万円+解体費150万円が不要になるなら、手取りでは買取のほうが多いケースがあります。売値ではなく手取りで比べてください。
相続人が複数いるときの進め方
相続した実家の売却でいちばん揉めるのが、ここです。査定サービスの選び方以前の問題として、押さえておいてください。
売却には全員の同意が必要
共有名義の不動産は、売却に共有者全員の同意が要ります。1人でも反対すれば売れません。査定は誰でも依頼できますが、契約段階で必ず全員が登場します。
よくある対立の構図
| 対立 | 背景 | 落としどころ |
|---|---|---|
| 売りたい vs 残したい | 実家への思い入れの差 | 残したい人が他の相続人の持分を買い取る(代償分割) |
| 早く売りたい vs 高く売りたい | 納税資金の要否 | 期限を決めて仲介、だめなら買取と先に合意 |
| 誰が手続きするか | 遠方・多忙の差 | 手続きする人に手間賃を配分で上乗せ |
| 費用を誰が立て替えるか | 現金の余裕の差 | 売却代金から精算する形にする |
分け方の3パターン
1. 換価分割……売って現金を分ける。実家じまいでは最も一般的。全員が納得しやすく、後腐れがありません。
2. 代償分割……1人が実家を相続し、他の相続人に現金を渡す。実家を残したい人がいる場合に使います。ただし渡す現金を用意できるかが前提です。
3. 現物分割……土地を分筆して分ける。広い土地でないと成立せず、分けると価値が下がることが多い。
「とりあえず全員の共有名義」は避けてください。 10年後に共有者の1人が亡くなれば、その持分は配偶者や子に相続され、関係者が3人から6人、10人へと増えていきます。所有者不明土地の多くはこうして生まれました。
話がまとまらない場合
- 不動産会社に査定額を出してもらい、客観的な数字を共有する……感情論が数字の議論に変わります
- 税理士に試算してもらう……「売った場合」「残した場合」の税額を並べると判断しやすくなります
- 持分だけ売る……共有持分専門の買取業者があります。ただし他の共有者との関係は悪化します
- 共有物分割請求……最終手段。裁判所を通じて分割を求めます
まずは1つ目です。査定額という共通の事実があるだけで、話が前に進むことは少なくありません。
内覧と管理をどうするか
遠方の実家を売る場合、避けて通れないのが物理的な管理です。
売却期間中に必要な管理
| 項目 | 頻度 | 委託した場合の費用 |
|---|---|---|
| 通風・換気 | 月1回 | 空き家管理サービス 月5,000〜10,000円 |
| 庭木の剪定・草刈り | 年2〜4回 | 1回 10,000〜50,000円 |
| 郵便物の確認 | 月1回 | 管理サービスに含まれることが多い |
| 建物の外観チェック | 月1回 | 同上 |
放置すると草が伸び、郵便物が溢れ、「明らかに空き家」という外観になります。これは売却活動で明確にマイナスです。内覧に来た買主の印象が悪くなるだけでなく、近隣からの苦情や不法投棄の原因にもなります。
内覧対応の方法
- 鍵を不動産会社に預ける……最も現実的。売主の立ち会い不要
- 現地で待ち合わせる……遠方だと交通費と時間がかかる
- キーボックスを設置する……不動産会社と相談のうえ
査定の段階で「遠方に住んでいるので、鍵を預けて内覧対応をお願いできますか」と聞いてください。対応できない会社は、遠隔売却の経験が乏しいということです。
火災保険を切らさない
売却が完了するまで、建物の所有者責任は売主にあります。空き家でも火災保険は継続しておいてください。ただし空き家は「住宅物件」ではなく「一般物件」扱いになり、保険料が上がるか、そもそも引き受けを断られることがあります。
保険会社に「空き家になった」と伝えないまま事故が起きると、保険金が支払われない可能性があります。面倒でも申告してください。
営業電話を減らす5つの方法

一括査定の最大のデメリットが、複数社からの連絡です。これはかなりコントロールできます。
1. 連絡方法を「メール希望」に指定する……多くのサービスに指定欄があります。
2. 依頼社数を4〜6社に絞る……10社に出すと連絡対応だけで疲れます。中央値を知るには4社で十分です。
3. 備考欄に状況を具体的に書く……「相続した空き家。まず価格を知りたい段階。訪問査定は価格を見てから判断します」と書いておくと、いきなり訪問を求める会社が減ります。
4. 専用のメールアドレスと電話番号を用意する……フリーメールと、通知をオフにできる番号を使うと精神的な負担が減ります。
5. 断るときははっきり伝える……「他社に決めました」と一言送れば連絡は止まります。曖昧にすると追客が続きます。
机上査定と訪問査定の使い分け
| 種類 | 内容 | 期間 | 精度 |
|---|---|---|---|
| 机上査定(簡易査定) | 住所・面積・築年数などから概算 | 即日〜3日 | ±20%程度 |
| 訪問査定(詳細査定) | 現地を見て評価 | 1週間程度 | ±5〜10% |
相続した実家では、まず机上査定で相場観をつかみ、候補を2〜3社に絞ってから訪問査定という順番が効率的です。
ただし、解体するかどうかの判断材料にするなら訪問査定が必要です。庭木や外構の状態、境界の有無、道路付けは現地を見なければ評価できません。
相続した実家を売るまでの流れ

- 相続人と方針を決める(1〜3か月)……売る方向で合意を取る
- 相続登記(1〜2か月)……名義を変える。2024年から義務
- 遺品整理(1〜3か月)……家財を出す。解体より先に
- 一括査定(2週間〜1か月)……現況と更地の両方
- 媒介契約……専属専任・専任・一般から選ぶ
- 売却活動・内覧(3〜12か月)
- 売買契約・決済・引渡し
- 翌年の確定申告……譲渡益が出た場合
全体像は実家じまいの進め方にまとめています。
媒介契約の3種類
| 種類 | 他社との重複 | 自己発見取引 | 報告義務 |
|---|---|---|---|
| 専属専任媒介 | 不可 | 不可 | 1週間に1回以上 |
| 専任媒介 | 不可 | 可 | 2週間に1回以上 |
| 一般媒介 | 可 | 可 | なし |
売れにくい田舎の物件は、一般媒介で複数社に任せるほうが機会が広がります。逆に人気エリアなら、専任にして1社に本気で動いてもらうほうが早いことがあります。
査定を依頼するときの入力のコツ
一括査定のフォームは1〜2分で終わりますが、書き方で返ってくる情報の質が変わります。
必ず入力する情報
| 項目 | 書き方のコツ |
|---|---|
| 物件の種別 | 「一戸建て」。土地だけなら「土地」 |
| 住所 | 番地まで。曖昧だと精度が落ちます |
| 土地・建物の面積 | 登記事項証明書または固定資産税の納税通知書から |
| 築年数 | 不明なら「昭和◯年頃」でも可 |
| 間取り | 4LDKなど |
| 現況 | 「空き家」を必ず選ぶ |
備考欄に書くべき5つのこと
ここが最重要です。何も書かないと、一般的な売却相談として処理されます。
- 相続した物件であること……「今年相続しました」
- 現況と更地の両方の査定を希望すること……「解体すべきか判断したいので、古家付きと更地の両方の価格を知りたい」
- 遠方に住んでいること……「私は東京在住で、物件は◯◯県です。鍵を預けての内覧対応は可能でしょうか」
- 家財の状況……「家財がまだ残っています」または「遺品整理は完了しています」
- 連絡の希望……「まずはメールでご連絡ください。日中は電話に出られません」
返信の質で会社を見分ける
備考欄に書いた内容に、具体的に答えているかを見てください。
良い返信の例……「現況では◯◯万円、更地想定では◯◯万円と見ています。ただし解体費が◯◯万円程度かかるため、現況のままのご売却をおすすめします。鍵をお預かりしての内覧対応も可能です」
そうでない返信の例……「査定額は◯◯万円です。詳しくは訪問してご説明します。ご都合のよい日時をお知らせください」
前者は質問に答えているのに対し、後者は訪問アポを取ることが目的になっています。この差は、その後のやり取り全体に表れます。
売却にかかる費用と手取りの計算
査定額がそのまま手元に残るわけではありません。差し引かれる費用を先に把握しておいてください。
| 費目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 仲介手数料 | 売買価格×3%+6万円+消費税(400万円超の場合) |
| 印紙税 | 売買価格により1,000円〜6万円 |
| 相続登記費用 | 登録免許税(評価額×0.4%)+司法書士報酬6万〜15万円 |
| 抵当権抹消登記 | 1〜2万円(残っている場合) |
| 確定測量 | 35万〜80万円(境界未確定の場合) |
| 解体費 | 150万〜250万円(更地渡しの場合) |
| 遺品整理・残置物処分 | 20万〜70万円 |
| 譲渡所得税・住民税 | 譲渡益×20.315%(長期譲渡の場合) |
| ハウスクリーニング | 3万〜10万円 |
譲渡所得税の計算
売却して利益が出ると、譲渡所得税と住民税がかかります。
譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)
相続した実家では、取得費が問題になります。 親が買ったときの契約書が残っていれば当時の購入価格を使えますが、見つからないことが多い。その場合は売却価格の5%を取得費とみなすルールが適用され、譲渡益が大きく計算されてしまいます。
つまり、購入時の契約書は数百万円の価値がある書類です。遺品整理のときに必ず探してください。
税率は所有期間で変わります。相続の場合は被相続人の所有期間を引き継ぐため、親が長く住んでいた家なら長期譲渡(20.315%)が適用されます。
なお、空き家の3,000万円特別控除が使えれば、譲渡益から最大3,000万円を控除できます。要件と期限は相続税の税理士費用相場で解説しています。
よくある失敗パターン
1. 査定を取らずに解体した……古家付きのほうが高かった、再建築不可で更地にすると価値が激減した、というケース。取り返しがつきません。
2. 一番高い査定額の会社に決めた……売れずに3か月後に値下げ提案。結局、中央値あたりで成約。
3. 相続登記を後回しにした……買主が見つかってから登記に着手し、戸籍収集で1〜2か月止まり、買主が離れた。
4. 税金の特例を確認せずに売った……取得費加算と3,000万円控除のどちらが有利か試算せず、数百万円損をした。
5. 共有名義のまま進めた……相続人の1人が反対して売却できず、固定資産税だけ払い続けている。
6. 「売れない」と決めつけて放置した……空き家は毎年10万〜20万円の維持費がかかり、建物は傷み、特例の期限も過ぎていく。
媒介契約を結んだあとに確認すること
査定で会社を選んだら終わりではありません。売れるかどうかは契約後の動き方で決まります。
レインズへの登録を確認する
専属専任媒介・専任媒介では、不動産会社はレインズ(不動産流通標準情報システム)への登録が義務です。専任媒介なら契約から7日以内、専属専任なら5日以内。
登録されると「登録証明書」が発行されるので、必ずコピーをもらってください。ここを確認しないと、いわゆる「囲い込み」の温床になります。
囲い込みを防ぐ簡単な方法があります。知人に頼んで別の不動産会社経由で問い合わせてもらうか、レインズの登録内容を自分で確認することです。専任媒介以上なら、売主専用の確認画面から登録状況を見られます。
販売活動の報告を受ける
| 媒介契約 | 報告義務 |
|---|---|
| 専属専任媒介 | 1週間に1回以上 |
| 専任媒介 | 2週間に1回以上 |
| 一般媒介 | なし |
報告では、問い合わせ件数・内覧件数・反応の内容を聞いてください。「問い合わせがない」のと「内覧はあるが決まらない」のとでは、打つ手がまったく違います。
- 問い合わせがない……価格が相場より高い、または掲載情報(写真・説明文)が弱い
- 内覧はあるが決まらない……室内の状態、周辺環境、価格の詰めの問題
掲載情報の質を確認する
見落とされがちですが、売却成否を大きく左右するのがポータルサイトへの掲載内容です。
- 写真の枚数と質……10枚以上あるか。暗い、傾いている、生活感が残っているものは差し替えを依頼する
- 間取り図……掲載されているか
- 物件の説明文……「リフォーム前提でお探しの方に」「土地としての利用も可能」など、買主像に合わせた訴求があるか
- 周辺環境の情報……スーパー、病院、学校までの距離
空き家は生活感がないぶん、写真次第で「手入れされていない廃屋」にも「これから手を入れられる家」にも見えます。掲載後に自分でポータルサイトを見て、買主の目線で確認してください。
3か月をひとつの区切りにする
媒介契約の有効期間は最長3か月です。この3か月で反応がなければ、戦略を変えます。
- 価格を見直す(相場の5〜10%が目安)
- 会社を変える
- 一般媒介に切り替えて複数社に出す
- 買取に切り替える
漫然と同じ条件で延長し続けるのが、いちばん時間を失うパターンです。空き家は保有しているだけで年10万〜20万円かかります。
売却が決まったあとの流れ
買主が見つかってからも、いくつか関門があります。
売買契約から引渡しまで
- 買付証明書の受領……買主の購入意思表示。価格交渉が入ることが多い
- 売買契約の締結……手付金の受領(売買価格の5〜10%)
- 引渡し準備……残置物の撤去、ライフラインの精算、境界の明示
- 決済・引渡し……残代金の受領と所有権移転登記。通常は契約から1〜2か月後
- 確定申告……譲渡益が出た場合、翌年の2月16日〜3月15日
引渡し前に必ず済ませること
- 残置物をすべて撤去する……「現況渡し」の合意がない限り、家財を残すと契約違反になります
- 境界を明示する……境界標が失われている場合、確定測量が必要になることがあります
- ライフラインの精算と解約……電気・ガス・水道・NHK・インターネット
- 火災保険の解約……未経過分が返戻されます。忘れる人が多い項目です
契約不適合責任に注意する
引渡し後に雨漏りやシロアリ被害が見つかると、売主が責任を負う可能性があります。築古物件では「契約不適合責任を免責」とする特約を付けるのが一般的です。
ただし、知っている不具合は必ず告知してください。黙っていると免責特約があっても責任を問われます。相続した実家は自分が住んでいなかったぶん、状態を把握しきれていないことが多いので、分かる範囲で正直に伝えるのが最善です。
よくある質問
Q. 査定は無料ですか?
無料です。机上査定も訪問査定も、費用は発生しません。売却の義務もありません。
Q. 査定だけ受けて売らなくても大丈夫ですか?
問題ありません。「まだ売ると決めていない」と最初に伝えてください。むしろ解体や活用を判断するために価格を知るのは、正しい使い方です。
Q. 相続登記前でも査定を受けられますか?
受けられます。ただし売買契約は名義変更後になるため、査定と並行して登記を進めてください。
Q. 相続人が複数いる場合、誰が査定を依頼しますか?
誰でも依頼できます。ただし売却には共有者全員の同意が必要です。査定額が出た段階で全員に共有し、方針を決めてください。
Q. 一括査定のデメリットは何ですか?
複数社からの連絡が来ることです。ただし連絡方法の指定と依頼社数の絞り込みでかなり抑えられます。もう一つは、加盟していない優良な地元業者が候補から漏れることです。気になる地元業者があれば、個別に問い合わせて比較に加えてください。
Q. 査定額と実際の売却価格はどのくらい違いますか?
訪問査定なら±5〜10%程度に収まることが多いものの、成約価格は査定額より1割程度低くなるのが一般的です。買主との価格交渉が入るためです。
Q. 実家に住んでいた親の私物が残っていますが、査定は受けられますか?
受けられます。むしろ家財が残った状態のほうが、買取の可能性を含めて正確に判断できます。片付ける前に「家財が残っている」と伝えて査定を取り、仲介と買取の両方の数字を見てから片付け方を決めてください。先に遺品整理をしてしまうと、買取で浮くはずだった費用を自分で払うことになります。
Q. 固定資産税の納税通知書が見つかりません。査定できますか?
できます。住所が分かれば概算は出せます。正確な面積が必要な場合は、法務局で登記事項証明書(1通600円)を取得するか、市区町村で名寄帳・固定資産評価証明書を取り寄せてください。相続人であれば取得できます。
Q. 兄弟のうち1人だけが査定を依頼しても問題ありませんか?
査定を受けるだけなら問題ありません。ただし売却には共有者全員の同意が必要です。査定額が出た段階で全員に共有し、方針を決めてください。むしろ客観的な数字があるほうが話がまとまりやすいというのが実務上の感覚です。
Q. 相続放棄を検討中ですが、査定を受けても大丈夫ですか?
査定を受けるだけなら問題ありませんが、財産を処分すると「単純承認」とみなされ相続放棄ができなくなる可能性があります。売買契約を結ぶ、家財を処分するといった行為は、放棄の判断がつくまで避けてください。相続放棄の期限は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月です。迷ったら司法書士か弁護士に相談を。
Q. 隣の土地の人が「売ってほしい」と言ってきました。一括査定は不要ですか?
むしろ必要です。 相場を知らずに交渉すると、安く手放すことになりかねません。査定で価格の目安を持ったうえで交渉してください。隣地所有者は「土地を広げたい」という明確な動機がある有力な買主候補なので、相場を把握したうえで直接売買すれば仲介手数料も抑えられます。ただし契約書の作成は専門家に依頼してください。
Q. 査定を頼んだ会社に必ず売却を依頼しないといけませんか?
義務はありません。査定はあくまで価格の目安を知るためのものです。複数社の査定を比較して、対応が丁寧で説明が具体的な会社を選んでください。断るときは「他社に決めました」と一言伝えれば済みます。
査定前に用意しておくと有利な書類
手元にあるかどうかで、査定の精度と売却時の費用が変わります。遺品整理のときに探しておいてください。
| 書類 | なぜ重要か | 無いとどうなるか |
|---|---|---|
| 購入時の売買契約書 | 取得費の証明になる | 売却価格の5%しか取得費に計上できず、譲渡所得税が大幅に増える |
| 確定測量図・境界確認書 | 境界が確定していることの証明 | 確定測量が必要になり35万〜80万円 |
| 建築確認済証・検査済証 | 建物の適法性を示す | 買主が住宅ローンを組みにくくなる |
| 建築時の図面 | リフォーム前提の買主に訴求できる | 買主が判断しづらい |
| 登記識別情報通知(権利証) | 所有権移転登記に使う | 司法書士の本人確認情報作成で5万〜10万円 |
| 固定資産税納税通知書 | 面積・評価額の確認 | 法務局・市区町村で取り寄せる手間 |
契約書が見つからない場合でも、当時の住宅ローンの償還表、通帳の振込記録、購入時のパンフレットなどが取得費を推認する資料として認められる可能性があります。捨てる前に税理士に相談してください。
空き家の3,000万円特別控除を使うなら査定を急ぐ
相続した実家を売るときの最大の節税策が、空き家の3,000万円特別控除です。譲渡益から最大3,000万円を控除できます。
主な要件は次のとおりです。
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋で、区分所有建物でないこと
- 相続開始の直前に被相続人が一人で住んでいたこと(老人ホーム入所も一定要件で可)
- 相続後、売却まで事業・貸付・居住に使っていないこと
- 売却代金が1億円以下
- 耐震改修をするか、建物を取り壊して売ること
- 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
最後の期限が効いてきます。相続してから査定・遺品整理・売却活動と進めると、3年はあっという間です。
なお2024年1月1日以降の譲渡からは、売却後の翌年2月15日までに買主が耐震改修または取壊しを行った場合も対象になりました。売主が先に解体する必要がなくなったぶん、使いやすくなっています。
一方で、相続人が3人以上の場合、控除額は1人あたり2,000万円に縮減されます。相続人が多い場合は税理士に試算を依頼してください。
さらに、この特例そのものの適用期限は2027年(令和9年)12月31日までの譲渡です。相続から3年という個別の期限と、制度自体の期限のうち、早く来るほうが効きます。
まとめ
相続した実家の一括査定でいちばん大事なのは、ランキングの順位ではなく、自分の物件の条件に合う会社に当たることです。
判断のポイントは5つです。
- 「現況」と「更地」の両方の査定額をもらう。解体の判断はこれがないとできない
- 提携社数より、実家のエリアに加盟店があるか
- 飛び抜けて高い1社と低い1社を除いた中央値が、その実家の実力値
- 営業電話は連絡方法の指定と社数の絞り込みで抑えられる
- 売れない場合は買取・空き家バンク・国庫帰属まで含めて、売値ではなく手取りで比べる
そして、査定を先延ばしにしないことです。空き家は毎年維持費がかかり、建物は傷み、税制特例には期限があります。
先延ばしで失うものを、時間軸で並べてみます。
| 経過期間 | 失うもの |
|---|---|
| 1年 | 保有コスト10万〜20万円。建物の劣化が進む |
| 3年 | 相続登記の義務期限(過料10万円以下)。空き家3,000万円控除の期限が迫る |
| 3年10か月 | 取得費加算の特例が使えなくなる |
| 5年以上 | 「リフォームすれば住める家」から「解体費がかかるだけの負動産」へ |
どれも「動かなかったこと」だけで発生する損失です。逆に言えば、査定を取って現況価格と更地価格を把握するだけで、これらはすべて避けられます。
査定は無料で、この段階では売却の義務もありません。現況価格と更地価格の2つが手に入れば、解体するか、貸すか、手放すかの判断がすべて数字でできるようになります。
この記事について
執筆:葉山 湊(はやま みなと)
自身の家族の実家じまいを経験し、そのときに「どこにも書かれていなかったこと」を出発点にこのサイトを立ち上げました。税理士・宅地建物取引士などの資格は保有していません。制度や税金については、必ず一次情報(国税庁・法務省・各自治体)にあたって記事に反映しています。
本記事の主な出典は次のとおりです。
・空き家の3,000万円特別控除:国税庁 No.3306
・取得費加算の特例:国税庁 No.3267
・長期譲渡所得の税率:国税庁 No.3208
・相続登記の義務化:法務省「相続登記の申請義務化について」
制度・税制は改正されます。本記事の内容は2026年9月3日時点の公表情報にもとづきます。 実際の判断は、税理士・司法書士・不動産会社など専門家にご確認ください。当サイトは個別の税務相談・法律相談には応じられません。


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