相続税の申告を税理士に頼もうとして最初に戸惑うのが、料金表がないことです。ホームページに「遺産総額の0.5%〜」とだけ書かれていて、実際にいくらになるのかが読めません。
理由は明快で、2002年に税理士報酬規定が廃止されたからです。いまは各事務所が自由に価格を決めており、同じ案件で30万円の見積もりも80万円の見積もりも出てきます。
この記事では相場の目安を示したうえで、なぜ事務所によって倍以上の差がつくのか、そして自分のケースではいくらになるのかを見積もれるように整理します。あわせて、「そもそも税理士に頼むべきか」を金額で判断する方法も示します。
先に結論だけまとめます。
- 報酬の目安は遺産総額の0.5〜1.0%。遺産5,000万円なら25万〜50万円
- 見積書は基本報酬+加算報酬の二階建て。差がつくのは加算報酬のほう
- 相続人の人数、不動産の件数、非上場株式の有無で数十万円変わる
- 税理士費用は債務控除の対象外。ただし相続財産から支払うのが一般的
- 遺産総額が基礎控除以下なら申告不要。まずここを確認する
金額は一般的な相場のレンジです。事務所・地域・案件の複雑さで変動するため、必ず複数から見積もりを取って確認してください。
そもそも相続税の申告は必要か
費用の話の前に、申告が必要かどうかを確認してください。不要なら費用はゼロです。
基礎控除額の計算
相続税には基礎控除があり、遺産総額がこの金額以下なら申告も納税も不要です。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
| 5人 | 6,000万円 |
実家と預貯金を合わせて4,000万円、相続人が子2人(基礎控除4,200万円)なら、申告そのものが不要です。
注意:特例を使うなら申告が必要
ここが間違えやすいところです。小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使って「相続税がゼロになる」場合は、申告が必要です。
これらは「申告することで受けられる特例」なので、申告しなければ適用されません。「税額ゼロだから申告しなくていい」と考えて期限を過ぎると、特例が使えなくなり本来ゼロだった税金が発生します。
判断に迷う場合は、この一点だけでも税理士に確認する価値があります。
相続税の税理士費用の相場

遺産総額別の目安
一般的な相場は遺産総額の0.5〜1.0%です。
| 遺産総額 | 報酬の目安 |
|---|---|
| 4,000万円 | 20万〜40万円 |
| 5,000万円 | 25万〜50万円 |
| 7,000万円 | 35万〜70万円 |
| 1億円 | 50万〜100万円 |
| 2億円 | 100万〜200万円 |
| 3億円 | 150万〜300万円 |
ここでいう「遺産総額」は、債務控除前の財産の合計額を指すのが一般的です。借入金を差し引く前の金額なので、住宅ローンが残っていても報酬は下がりません。事務所によって定義が異なるため、見積もり時に確認してください。
報酬は「基本報酬+加算報酬」の二階建て
見積書は次の構造になっています。
基本報酬……遺産総額に応じた基礎部分。上の表の下限に近い金額です。
加算報酬……案件の複雑さに応じた上乗せ。ここで金額が大きく変わります。
| 加算項目 | 加算額の目安 |
|---|---|
| 相続人が1人増えるごと | 基本報酬の10〜15% |
| 土地の評価(1利用区分ごと) | 5万〜10万円 |
| 非上場株式の評価(1社ごと) | 15万〜25万円 |
| 書面添付制度の利用 | 5万〜10万円 |
| 申告期限まで3か月未満の特急対応 | 基本報酬の20〜50% |
| 準確定申告 | 3万〜10万円 |
| 遺産分割協議書の作成 | 5万〜15万円 |
| 相続財産の名義変更サポート | 3万〜10万円 |
| 税務調査の立ち会い | 1日あたり5万〜10万円 |
「0.5%〜」と書いてある事務所が、最終的に1.0%になるのはこの加算があるためです。広告の下限価格は、財産が預貯金だけで相続人が1人という単純なケースの金額だと考えてください。
実家を相続するなら土地の評価加算は必ず入る
実家じまいの文脈では、必ず土地が1件以上あります。土地の評価は相続税申告で最も手間のかかる作業で、1利用区分あたり5万〜10万円の加算が標準です。
「利用区分」とは、宅地・貸地・農地といった使い方の単位です。自宅と隣接する駐車場を持っていれば2区分、地方に農地もあれば3区分になります。
見積もりの実例|3つのケース

ケースA:遺産5,000万円・相続人2人・実家1件と預貯金
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 基本報酬(遺産5,000万円) | 250,000円 |
| 相続人加算(1人分) | 30,000円 |
| 土地評価加算(1区分) | 70,000円 |
| 合計 | 350,000円 |
遺産総額に対して0.7%。もっとも標準的なケースです。
ケースB:遺産1億円・相続人3人・土地3件・準確定申告あり
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 基本報酬(遺産1億円) | 500,000円 |
| 相続人加算(2人分) | 100,000円 |
| 土地評価加算(3区分) | 210,000円 |
| 準確定申告 | 60,000円 |
| 書面添付制度 | 80,000円 |
| 合計 | 950,000円 |
0.95%。土地が3件あるだけで21万円が乗ります。
ケースC:遺産2億円・相続人4人・土地5件・非上場株式1社
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 基本報酬(遺産2億円) | 1,000,000円 |
| 相続人加算(3人分) | 300,000円 |
| 土地評価加算(5区分) | 400,000円 |
| 非上場株式の評価(1社) | 250,000円 |
| 書面添付制度 | 100,000円 |
| 遺産分割協議書の作成 | 100,000円 |
| 合計 | 2,150,000円 |
1.08%。非上場株式が1社あるだけで25万円が加算されます。同族会社を経営していた場合は、この項目を必ず確認してください。
自分で申告する場合との比較

相続税申告は自分でもできます。では、どこが分かれ目でしょうか。
自分で申告できるケース
- 遺産が預貯金と上場株式だけ
- 相続人が1〜2人で争いがない
- 遺産総額が基礎控除を少し超える程度
- 小規模宅地等の特例を使わない
このパターンなら、税務署の相談窓口を利用しながら自力で申告できます。かかるのは戸籍等の取得費(1万〜2万円)程度です。
税理士に頼むべきケース
- 不動産がある(とくに土地)
- 小規模宅地等の特例を使う
- 配偶者の税額軽減を使う
- 非上場株式がある
- 相続人の間で意見が割れている
- 遺産総額が1億円を超える
- 申告期限まで3か月を切っている
実家がある時点で、依頼を検討すべき理由
土地の評価は、相続税申告で最も差が出る部分です。同じ土地でも、評価の仕方によって数百万円の違いが生じます。
減額要素の例を挙げます。
| 減額要素 | 減額の目安 |
|---|---|
| 不整形地(いびつな形の土地) | 最大40%程度 |
| 間口が狭い・奥行きが長い | 数%〜10%程度 |
| 私道に接している | 私道部分は最大3割評価または0評価 |
| セットバックが必要 | 該当部分は7割減 |
| 高圧線下・線路沿い・墓地隣接 | 状況により減額 |
| 土砂災害特別警戒区域内 | 一定割合の減額 |
これらは適用できることを知らなければ、そのまま高い評価額で申告することになります。税理士報酬が35万円かかっても、評価減で税額が100万円下がるなら、頼んだほうが得です。
さらに、小規模宅地等の特例は要件が複雑です。居住用宅地なら330㎡まで評価額が80%減になる強力な制度ですが、同居の有無、別居親族の要件(いわゆる家なき子特例)、老人ホーム入所の扱いなど、判断を誤ると適用を落とします。
「実家がある相続」は、税理士に依頼する費用対効果がもっとも高い類型だと考えてください。
損得を数字で比較する
抽象論では判断できないので、モデルケースで比べます。遺産6,000万円(実家4,000万円+預貯金2,000万円)、相続人は子2人(基礎控除4,200万円)というケースです。
自分で申告した場合
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 土地の評価額(路線価どおり) | 40,000,000円 |
| 小規模宅地等の特例 | 適用要件を満たさず不適用と判断 |
| 課税価格 | 60,000,000円 |
| 基礎控除 | −42,000,000円 |
| 課税対象 | 18,000,000円 |
| 相続税額(2人合計) | 1,800,000円 |
| 税理士費用 | 0円 |
| 手元から出る合計 | 1,800,000円 |
税理士に依頼した場合
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 土地の評価額(不整形地補正15%減) | 34,000,000円 |
| 小規模宅地等の特例(家なき子特例が適用可と判断) | −27,200,000円 |
| 課税価格 | 26,800,000円 |
| 基礎控除 | −42,000,000円 |
| 課税対象 | 0円 |
| 相続税額 | 0円 |
| 税理士費用 | 400,000円 |
| 手元から出る合計 | 400,000円 |
差は140万円です。税理士費用40万円を払って、140万円得をした計算になります。
もちろん常にこうなるとは限りません。しかし「土地がある」「特例の適用可否が微妙」という条件が揃ったとき、判断を誤ると数十万〜数百万円が動くのは事実です。だからこそ、まず試算だけでも依頼する価値があります。
多くの相続税専門事務所が初回相談・試算を無料で行っています。「頼むかどうか」を決めるために、まず試算を受けるのが合理的です。
相続税がかかる財産・かからない財産
報酬は遺産総額に連動するため、何が遺産に含まれるかを知っておくと見積もりの妥当性を判断できます。
課税される財産
| 種類 | 評価の方法 |
|---|---|
| 土地 | 路線価方式または倍率方式 |
| 建物 | 固定資産税評価額 |
| 預貯金 | 死亡日の残高+既経過利息 |
| 上場株式 | 死亡日の終値など4つの価格の最も低い額 |
| 非上場株式 | 類似業種比準方式・純資産価額方式など |
| 生命保険金 | 「500万円×法定相続人の数」を超えた部分 |
| 死亡退職金 | 「500万円×法定相続人の数」を超えた部分 |
| ゴルフ会員権・貴金属・書画骨董 | 時価 |
課税されない財産
- 墓地・墓石・仏壇・仏具(日常礼拝しているもの)
- 生命保険金・死亡退職金の非課税枠内の部分
- 国や地方公共団体へ寄付した財産
仏壇や墓石が非課税なのは、実家じまいの文脈で覚えておく価値があります。生前に墓地を購入しておくと、その分だけ課税対象の現金が減る、という考え方が成り立ちます。ただし投資目的の純金製仏具などは否認されるので、常識的な範囲にとどめてください。
見落とされやすい「名義預金」
税務調査で最も指摘されるのがこれです。名義は配偶者や子でも、実質的に被相続人のお金だった預金は、相続財産として課税されます。
判断されるポイントは4つです。
- 入金の原資が誰のものか
- 通帳と印鑑を誰が管理していたか
- 名義人がその口座の存在を知っていたか
- 贈与契約が成立していたか
「子ども名義で毎年100万円ずつ積み立てていた」というケースは、贈与の実態がなければ被相続人の財産とみなされます。申告漏れになりやすい項目なので、心当たりがあれば必ず税理士に伝えてください。
実家を相続したときに使える特例
税理士に依頼する価値の大半は、この特例判断にあります。
小規模宅地等の特例
被相続人が住んでいた宅地を相続する場合、330㎡まで評価額が80%減になります。4,000万円の土地なら800万円まで下がる、非常に効果の大きい制度です。
適用できるのは次のいずれかです。
| 取得者 | 主な要件 |
|---|---|
| 配偶者 | 無条件で適用可 |
| 同居していた親族 | 申告期限まで居住・保有を継続 |
| 別居の親族(家なき子特例) | 配偶者・同居相続人がいない/過去3年間、自己または配偶者等の所有する家に住んでいない/相続した宅地を申告期限まで保有 |
「家なき子特例」の判断がとくに難しい部分です。賃貸暮らしの子が実家を相続する場合に使える可能性がありますが、要件が細かく、平成30年度の改正で適用範囲が狭まりました。自己判断は避けてください。
なお、被相続人が老人ホームに入所していた場合も、要介護認定を受けているなど一定の条件を満たせば適用できます。実家じまいの文脈では該当するケースが多いので、必ず確認してください。
配偶者の税額軽減
配偶者が相続する場合、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額まで相続税がかかりません。
ただし前述のとおり、これを最大限使うと二次相続で不利になることがあります。母が全財産を相続すると一次相続の税額はゼロですが、母が亡くなったときの相続では基礎控除が減り(相続人が1人減るため600万円減)、税率も上がります。
一次と二次の通算で最適な配分を計算するのは、税理士の腕の見せどころです。
売却時に使える2つの特例
実家を売る予定なら、この2つを比較する必要があります。
| 特例 | 内容 | 期限 |
|---|---|---|
| 取得費加算の特例 | 支払った相続税のうち、その不動産に対応する分を取得費に加算 | 相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続開始から3年10か月以内) |
| 空き家の3,000万円特別控除 | 譲渡所得から最大3,000万円を控除 | 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで |
この2つは併用できません。 どちらが有利かは、相続税額と譲渡益の大きさで変わります。相続税を多く払った人は取得費加算が、譲渡益が大きい人は3,000万円控除が有利になりやすい傾向がありますが、必ず試算して選んでください。
空き家の3,000万円特別控除には、昭和56年5月31日以前の建築、区分所有建物でない、相続開始直前に被相続人が一人で住んでいた、譲渡対価1億円以下、耐震改修または取壊しをして売る、といった要件があります。相続人が3人以上の場合、控除額は1人あたり2,000万円に縮減されます。
税理士に依頼する流れと必要書類
依頼から申告までの流れ
- 初回相談・見積もり(1〜2時間)……財産の概要を伝え、報酬の見積もりを受ける。多くの事務所が無料
- 契約……委任契約書を交わす
- 資料の収集(1〜2か月)……戸籍・残高証明書・不動産の資料など
- 財産評価(1〜2か月)……土地の現地調査、株式の評価
- 遺産分割協議……相続人全員で分け方を決める
- 申告書の作成・確認(2〜4週間)
- 申告・納付……相続開始から10か月以内
準備しておく主な書類
| 分類 | 書類 | 入手先 |
|---|---|---|
| 身分関係 | 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 | 本籍地の市区町村 |
| 身分関係 | 相続人全員の戸籍謄本・住民票 | 各市区町村 |
| 身分関係 | 相続人全員の印鑑証明書 | 各市区町村 |
| 不動産 | 固定資産評価証明書 | 市区町村(都税事務所) |
| 不動産 | 登記事項証明書・公図・地積測量図 | 法務局 |
| 預貯金 | 残高証明書(死亡日基準) | 各金融機関 |
| 預貯金 | 過去5〜7年分の通帳の写し | 手元または金融機関 |
| 有価証券 | 残高証明書 | 証券会社 |
| 保険 | 生命保険金の支払通知書 | 保険会社 |
| 債務 | 借入残高証明書、未払医療費の領収書 | 各所 |
| 葬儀 | 葬儀費用の領収書 | 手元 |
「過去5〜7年分の通帳」を求められて驚く方が多いのですが、これは名義預金や生前贈与の有無を確認するためです。隠すと後で調査対象になるため、正直に出したほうが結果的に安全です。
戸籍の収集は自力でも可能ですが、被相続人が転籍を繰り返していると数か月かかることがあります。取得代行を頼むと5万〜10万円。時間を買うかどうかの判断です。
相続税の税率と、実際にいくらかかるのか
報酬の話と並んで気になるのが、税金そのものがいくらかです。仕組みを知っておくと、税理士の説明も理解しやすくなります。
相続税の速算表
課税遺産総額を法定相続分で按分した、各人の取得金額に対して次の税率がかかります。
| 各人の取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | — |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
遺産総額別の税額の目安(相続人が子2人の場合)
| 遺産総額 | 相続税の総額 | 税理士報酬の目安 |
|---|---|---|
| 5,000万円 | 80万円 | 25万〜50万円 |
| 7,000万円 | 320万円 | 35万〜70万円 |
| 1億円 | 770万円 | 50万〜100万円 |
| 2億円 | 3,340万円 | 100万〜200万円 |
※基礎控除のみを適用した概算。特例を使えば大きく下がります
節税の余地がどこにあるか
税額を下げる手段は、大きく3つに分かれます。
1. 評価額を下げる……土地の減額補正、小規模宅地等の特例。最も効果が大きく、税理士の力量が出る領域です。
2. 控除を使い切る……配偶者の税額軽減、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除。適用漏れが起きやすい部分です。
3. 分け方を工夫する……誰がどの財産を相続するかで、特例の適用可否が変わります。とくに小規模宅地等の特例は取得者によって使えたり使えなかったりします。
3つ目は見落とされがちですが重要です。遺産分割協議の前に税理士に相談すると、税額が変わることがあります。分割が決まってからでは手遅れになる論点です。
税理士選びで見るべき5つのポイント

1. 相続税申告の年間取扱件数
税理士の多くは法人税・所得税が専門で、相続税申告を年に数件しか扱わない事務所も珍しくありません。土地評価は経験がものを言う分野です。「年間何件扱っていますか」と直接聞いてください。二桁あれば十分な経験値です。
2. 見積書に加算報酬が明示されているか
「一式」でまとめられた見積書は、後から追加請求される余地を残します。基本報酬と加算項目が分かれて記載されているかを確認してください。
3. 書面添付制度を使うか
書面添付制度とは、税理士が「この申告書はこう検討して作りました」という書面を添付する制度です。この書面があると、税務署はいきなり調査に入らず、まず税理士に意見聴取を行います。
追加報酬5万〜10万円かかりますが、税務調査に入られる確率を下げる効果が期待できます。相続税は他の税目より調査割合が高いとされているため、検討する価値があります。
4. 土地評価を実地で行うか
図面と資料だけで評価する事務所と、現地に足を運んで測る事務所があります。前述の減額要素は、現地を見なければ気づけないものが多くあります。「土地は現地調査されますか」と聞いてください。
5. 二次相続まで考えた提案があるか
配偶者の税額軽減を最大限使うと、一次相続の税額はゼロに近づきます。しかし配偶者が亡くなる二次相続では、基礎控除が減り税率が上がるため、通算では損をすることがあります。
一次相続と二次相続の合計で最適化する提案ができるかどうかは、税理士の力量が出るところです。
費用を抑える方法
1. 複数の事務所から見積もりを取る
同じ案件で倍近い差がつきます。3事務所から取れば相場観がつかめます。初回相談を無料としている事務所が多く、比較のコストはほとんどかかりません。
2. 資料を自分で揃える
戸籍謄本、住民票、固定資産評価証明書、残高証明書などを自分で集めれば、資料収集代行の費用(5万〜15万円)を節約できます。時間はかかりますが、確実に下がる部分です。
3. 早めに依頼する
申告期限まで3か月を切ると、特急料金として20〜50%の加算がつく事務所があります。相続開始から3〜4か月以内に相談を始めれば、この加算を避けられます。
4. 相続税専門の事務所を選ぶ
一見高そうに見えますが、土地評価の精度が高く、結果的に税額が下がることが多くあります。報酬の差より税額の差のほうが大きくなりがちです。
5. 不要なオプションを外す
遺産分割協議書の作成や名義変更を自分で行えば、その分の加算を外せます。ただし不動産の相続登記は司法書士の領域なので、別途手配が必要です。
相見積もりの取り方と、比較のしかた
3事務所から取るときの伝え方
同じ条件を伝えないと比較になりません。次の情報を揃えて、同じ内容で問い合わせてください。
- 被相続人の死亡日(申告期限の逆算に使われます)
- 法定相続人の人数と続柄
- 財産のおおよその内訳……不動産の件数と所在地、預貯金の概算、有価証券の有無、非上場株式の有無
- 希望するオプション……準確定申告、書面添付制度、遺産分割協議書の作成、名義変更
「土地が3件(自宅・駐車場・農地)、預貯金3,000万円、相続人は子2人」まで伝えれば、各事務所とも同じ前提で見積もりを出せます。
見積書の比較例
遺産8,000万円・相続人2人・土地2件というケースで、3事務所から取った例です。
| 項目 | A事務所 | B事務所 | C事務所 |
|---|---|---|---|
| 基本報酬 | 400,000円 | 320,000円 | 480,000円 |
| 相続人加算 | 40,000円 | 基本に含む | 50,000円 |
| 土地評価加算(2区分) | 140,000円 | 見積書に記載なし | 160,000円 |
| 書面添付制度 | 80,000円 | オプション(金額記載なし) | 基本に含む |
| 資料収集代行 | 別途 | 別途 | 基本に含む |
| 提示総額 | 660,000円 | 320,000円+α | 690,000円 |
B事務所が半額に見えますが、土地評価加算と書面添付の金額が書かれていません。同じ範囲まで含めれば、A事務所と大きくは変わらない可能性が高い。
A事務所とC事務所は3万円しか差がなく、C事務所は資料収集代行が基本に含まれているぶん、実質はC事務所のほうが安い計算になります。
比較のときに必ず聞く3つの質問
- 「この見積もりに含まれない作業は何ですか」……追加が発生する条件を先に潰します
- 「土地は現地に行って評価しますか」……減額要素は現地でしか見つからないものがあります
- 「申告後に税務調査が入った場合の対応と費用は」……立ち会い費用が別途か、含まれるかを確認します
この3つに具体的に答えられる事務所なら、実務の経験値があると考えて構いません。
支払いに関するよくある疑問
税理士費用は誰が払うのか
相続人全員で負担するのが一般的です。相続財産から支払い、残りを分割する形にすれば、立て替えの負担が偏りません。
ただし法律上の決まりはないため、遺産分割協議で明確にしておいてください。「長男が立て替えたまま精算されない」というのは、後で揉める典型パターンです。
相続税の債務控除に使えるか
使えません。 債務控除の対象になるのは、被相続人が生前に負っていた債務と葬式費用です。相続税申告のための税理士報酬は相続開始後に相続人が負担する費用なので、対象外です。
一方、被相続人の準確定申告にかかる税理士報酬は、被相続人の債務として控除できる場合があります。混同しやすいので、税理士に確認してください。
支払いのタイミング
着手時に半金、申告書提出時に残金という事務所が多数派です。全額前払いを求める事務所は少数なので、そうした条件を提示された場合は理由を確認してください。
相続税申告のスケジュール

相続税の申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 〜3か月 | 相続放棄・限定承認の判断/税理士への相談開始 |
| 〜4か月 | 準確定申告 |
| 4〜6か月 | 財産の洗い出し、評価、遺産分割協議 |
| 7〜9か月 | 申告書の作成、内容確認 |
| 10か月 | 申告・納付の期限 |
遺産分割がまとまらないまま期限を迎えると、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減が使えません。 いったん法定相続分で申告して納税し、後日「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出して分割が済んでから更正の請求を行う、という手続きになります。手間も費用も増えるため、分割協議は早めに始めてください。
よくある質問
Q. 相続税を税理士に頼む人の割合はどのくらいですか?
正確な統計はありませんが、相続税申告の大半は税理士が関与しているとされています。土地の評価と特例判断が複雑なため、実務上は専門家に依頼するのが一般的です。
Q. 遺産5,000万円だと相続税はいくらかかりますか?
相続人が子2人なら基礎控除は4,200万円。課税対象は800万円で、法定相続分で按分すると各400万円、税率10%で各40万円、合計80万円です。ただし小規模宅地等の特例を使えばゼロになることもあります。実際の税額は財産の内訳で大きく変わるため、試算を依頼してください。
Q. 税理士に丸投げできますか?
戸籍と残高証明書の取得、遺産分割の意思決定は相続人しかできません。それ以外の財産評価・申告書作成・提出は代行してもらえます。資料収集も有料オプションで頼めます。
Q. 相続税の税務調査はどのくらいの割合で入りますか?
相続税は他の税目に比べて調査割合が高いとされています。とくに名義預金(配偶者や子の名義だが実質は被相続人の預金)は指摘されやすい項目です。書面添付制度を使うと、調査の前に税理士への意見聴取が行われます。
Q. 申告が期限に間に合わなかったらどうなりますか?
無申告加算税と延滞税が課されます。さらに小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減が使えなくなるため、本来払わなくてよかった税金を払うことになります。間に合わないと分かった時点で、すぐ税理士に相談してください。
Q. 税理士以外に相談できる専門家はいますか?
相続に関わる専門家は分野が分かれています。税金の計算と申告は税理士の独占業務で、他の士業は代行できません。
| 専門家 | 担当分野 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 税理士 | 相続税の計算・申告、財産評価 | 遺産総額の0.5〜1.0% |
| 司法書士 | 相続登記(不動産の名義変更) | 6万〜15万円+登録免許税 |
| 弁護士 | 相続人間の紛争、遺産分割調停 | 着手金20万〜、報酬は経済的利益の10〜16% |
| 行政書士 | 戸籍収集、遺産分割協議書の作成 | 5万〜20万円 |
| 土地家屋調査士 | 境界確定、測量、建物滅失登記 | 測量35万〜80万円 |
実家を相続して売却するなら、税理士(申告)と司法書士(相続登記)の両方が必要になります。ワンストップで提携先を紹介してくれる事務所を選ぶと、窓口が一つで済みます。
Q. 相続税の納税資金が足りない場合はどうすればいいですか?
3つの選択肢があります。延納(最長20年の分割払い、利子税がかかる)、物納(財産そのもので納付。要件が厳しい)、そして相続財産の売却です。
実家を相続したものの現金が少ないケースでは、実家を売って納税資金にあてるのが現実的です。ただし申告期限(10か月)までに売却を完了させるのは簡単ではありません。相続開始直後から不動産会社に動いてもらう必要があります。
Q. 申告後に財産の漏れが見つかったらどうなりますか?
修正申告を行います。自主的に修正すれば過少申告加算税は原則かかりませんが、税務調査で指摘された後だと10〜15%の加算税が課されます。心当たりがあれば早めに申し出てください。
Q. 実家を売却する予定ですが、申告前に売っても大丈夫ですか?
売却のタイミングで使える特例が変わります。取得費加算の特例は相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続開始から3年10か月以内)、空き家の3,000万円特別控除は相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までが期限です。どちらが有利かは試算が必要なので、売却前に税理士へ相談してください。
まとめ
相続税申告の税理士報酬は、遺産総額の0.5〜1.0%が目安です。遺産5,000万円なら25万〜50万円、1億円なら50万〜100万円。ただし見積書は基本報酬と加算報酬の二階建てで、差がつくのは加算報酬のほうです。
判断のポイントは5つです。
- まず基礎控除以下かどうかを確認する。以下なら申告も納税も不要
- ただし特例で税額ゼロになる場合は申告が必要。ここを間違えると本来ゼロの税金が発生する
- 実家(土地)がある時点で、依頼の費用対効果は高い。評価減で報酬以上に税額が下がることが多い
- 見積もりは3事務所から。同じ条件を伝え、同じ範囲まで揃えた金額で比べる
- 年間取扱件数、土地の現地調査の有無、税務調査時の対応の3つは必ず聞く
とくに3つ目を強調しておきます。税理士報酬は「支出」に見えますが、実際には土地の評価を下げる技術に対する投資です。不整形地の補正、私道の評価、小規模宅地等の特例。これらを適切に使えるかどうかで、税額は数十万円から数百万円変わります。報酬を10万円ケチって、税額が100万円増えては意味がありません。
一方で、財産が預貯金だけで相続人も少ないなら、自分で申告して問題ないケースも確かにあります。「実家(土地)があるかどうか」が、依頼すべきかの実務的な分かれ目だと考えてください。
実家の売却を予定している場合は、売る前に税理士へ相談してください。取得費加算の特例と空き家の3,000万円特別控除は併用できず、どちらを選ぶかで手取りが変わります。売った後では選び直せません。
実家じまい全体の流れと、相続手続きの期限一覧は実家じまいの進め方|損しない順番5ステップと費用総額にまとめています。
この記事について
執筆:葉山 湊(はやま みなと)
自身の家族の実家じまいを経験し、そのときに「どこにも書かれていなかったこと」を出発点にこのサイトを立ち上げました。税理士・宅地建物取引士などの資格は保有していません。制度や税金については、必ず一次情報(国税庁・法務省・各自治体)にあたって記事に反映しています。
本記事の主な出典は次のとおりです。
・基礎控除・相続税の計算:国税庁 No.4152
・相続税の速算表:国税庁 No.4155
・小規模宅地等の特例:国税庁 No.4124
・配偶者の税額軽減:国税庁 No.4158
制度・税制は改正されます。本記事の内容は2026年9月3日時点の公表情報にもとづきます。 実際の判断は、税理士・司法書士・不動産会社など専門家にご確認ください。当サイトは個別の税務相談・法律相談には応じられません。


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