相続した実家を売ろうとして、いちばん怖いのが税金です。「売れたはいいが、税金でごっそり持っていかれた」という話を聞いて、動けなくなっている方は少なくありません。
結論から言うと、相続した実家を売って税金がかかるのは「利益(譲渡益)が出たとき」だけです。そして地方の築古住宅では、そもそも譲渡益が出ないケースも多くあります。
問題は、利益が出るかどうかが「売値」ではなく「親がいくらで買ったか」で決まることです。ここを知らないまま売却して、数百万円損をする人がいます。
この記事では、相続した実家の売却でかかる税金の全体像、譲渡所得の計算方法、そして最大の節税策である空き家の3,000万円特別控除と取得費加算の特例のどちらが得かを、実際の数字で比べます。
- まず結論:税金がかかるのは「譲渡益が出たとき」だけ
- 譲渡所得の計算|相続特有の落とし穴は「取得費」
- 税率は所有期間で2倍近く変わる
- 相続税の申告と譲渡所得の申告は別物
- 【最重要】空き家の3,000万円特別控除
- 取得費加算の特例
- どちらが得か?3ケースで試算する
- 2024年改正で増えた「買主に壊してもらう」売り方
- 共有名義で相続した実家を売るとき
- 譲渡益が出ると、翌年の負担が上がる
- 3年をどう使うか|逆算スケジュール
- マイホームの3,000万円控除との違い
- 税金で失敗する5つのパターン
- 期限のまとめ
- 確定申告の手順と必要書類
- 売却後に届く「お尋ね」への対応
- 申告を忘れた・間違えたときの対処
- 売却前にやっておくと得すること
- 自分で申告できるか、税理士に頼むか
- よくある質問
- まとめ
まず結論:税金がかかるのは「譲渡益が出たとき」だけ

売却代金そのものに税金がかかるわけではありません。かかるのは譲渡所得(もうけ)に対する税金です。
譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)
この計算がマイナスになれば、譲渡所得税・住民税はゼロです。申告も原則不要です。
売却にともなって発生する費用には、次のものがあります。
| 項目 | 金額の目安 | 発生タイミング |
|---|---|---|
| 相続登記の登録免許税 | 固定資産税評価額の0.4% | 売却前 |
| 司法書士報酬(相続登記) | 5万〜15万円 | 売却前 |
| 印紙税(売買契約書) | 1万円(1,000万円超5,000万円以下) | 契約時 |
| 仲介手数料 | 売却価格の3%+6万円+消費税が上限 | 決済時 |
| 譲渡所得税・住民税 | 譲渡益の20.315%または39.63% | 翌年の確定申告 |
このうち金額が大きくなりうるのは、いちばん下の譲渡所得税・住民税だけです。ほかは売却価格に対して数%以内に収まります。
だからこの記事では、譲渡所得税に集中して解説します。
譲渡所得の計算|相続特有の落とし穴は「取得費」

計算式は先ほどのとおりですが、相続した家では取得費が最大の問題になります。
取得費に入るもの
- 親が買ったときの購入代金(土地+建物)
- 購入時の仲介手数料、登録免許税、不動産取得税、印紙税
- 建築費(自分で建てた場合)
- 相続登記にかかった登録免許税と司法書士報酬
ただし建物については、購入額をそのまま使えるわけではありません。建物は年々価値が落ちるという考え方で、経過年数に応じた減価償却費相当額を差し引いた金額が取得費になります。土地は減価しないので、購入額がそのまま使えます。
建物の取得費は「減価償却」で目減りする
契約書が見つかっても、購入額をそのまま使えるのは土地だけです。建物は経過年数に応じて価値が下がったものとみなし、減価償却費相当額を差し引きます。
非事業用(自宅)の建物は、次の式で計算します。
建物の取得費 = 建物の購入代金 −(建物の購入代金 × 0.9 × 償却率 × 経過年数)
償却率は構造によって決まっています。非事業用建物の場合、耐用年数を1.5倍して求めた年数に対応する率を使います。
| 構造 | 非事業用の償却率 |
|---|---|
| 木造 | 0.031 |
| 木造モルタル | 0.034 |
| 鉄骨造(骨格材3mm以下) | 0.036 |
| 鉄骨造(骨格材3mm超4mm以下) | 0.025 |
| 鉄筋コンクリート造 | 0.015 |
実際に計算してみます。木造の実家を、親が1990年に建物1,200万円・土地1,800万円で購入。2026年に売却するケースです。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 経過年数 | 1990年→2026年 | 36年 |
| 減価償却費相当額 | 1,200万円 × 0.9 × 0.031 × 36年 | 1,205万円 |
| 建物の取得費 | 1,200万円 − 1,205万円 → 下限適用 | 60万円 |
| 土地の取得費 | 減価しない | 1,800万円 |
| 取得費の合計 | 1,860万円 |
築36年の木造なら、建物の価値はほぼゼロまで償却されます。ただし計算上マイナスにはならず、購入代金の5%が下限です(この例では1,200万円×5%=60万円)。
つまり築古の実家では、取得費の実質はほぼ土地の購入額と考えて差し支えありません。それでも、土地1,800万円という数字が使えるかどうかが決定的です。
契約書がないと「売値の5%」になる
問題はここです。親が買ったときの売買契約書が見つからない場合、取得費は「売却価格の5%」として計算されます(概算取得費)。
数字で見ると、その差は歴然です。
| 契約書あり(購入額2,000万円) | 契約書なし(概算取得費5%) | |
|---|---|---|
| 売却価格 | 1,500万円 | 1,500万円 |
| 取得費 | 1,700万円(土地1,400万+建物300万) | 75万円 |
| 譲渡費用 | 60万円 | 60万円 |
| 譲渡所得 | −260万円(課税なし) | 1,365万円 |
| 税額(長期20.315%) | 0円 | 約277万円 |
同じ家を同じ値段で売っても、契約書1枚の有無で277万円変わります。
契約書がないときに試せること

契約書が出てこなくても、あきらめる前に次を探してください。
- 通帳の記録……購入代金の振込記録が残っていれば、購入額の証拠になりえます
- 住宅ローンの金銭消費貸借契約書……借入額から購入額を推定できる場合があります
- 分譲時のパンフレット・価格表……同じ物件・同じ間取りの分譲価格がわかります
- 購入時の登記簿(登記事項証明書)……抵当権設定額から借入額がわかります
- 市街地価格指数を使った推定……土地について、購入時と売却時の価格指数から取得費を逆算する方法です
これらは税務署に必ず認められるとは限りません。とくに市街地価格指数による推定は、認められた事例も否認された事例もあります。採用するかどうかは、必ず税理士に相談してから決めてください。
譲渡費用に入るもの・入らないもの
譲渡費用は「売るために直接かかった費用」に限られます。
| 譲渡費用になる | 譲渡費用にならない |
|---|---|
| 仲介手数料 | 相続登記の費用(取得費に入る) |
| 売買契約書の印紙税 | 固定資産税・都市計画税 |
| 建物の取壊し費用(土地を売るため) | 遺品整理・家財処分費 |
| 借家人への立退料 | 修繕費・維持管理費 |
| 測量費(売却のために行ったもの) | 引越し費用 |
遺品整理費が譲渡費用にならない点は、見落とされがちです。数十万円かかっても、税金の計算では引けません。
税率は所有期間で2倍近く変わる

譲渡所得税の税率は、その不動産をどれだけ長く持っていたかで変わります。
| 区分 | 所有期間 | 所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 5% | 所得税額の2.1% | 20.315% |
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 9% | 所得税額の2.1% | 39.63% |
判定は「売った年の1月1日時点で5年を超えているか」で行います。2026年中に売るなら、2026年1月1日時点で所有期間5年超かどうかを見ます。
相続では親の所有期間を引き継ぐ
ここが相続の大きな利点です。相続で取得した不動産は、被相続人(親)が取得した日をそのまま引き継ぎます。
つまり、相続してから1年で売ったとしても、親が30年住んでいた家なら長期譲渡(20.315%)が適用されます。「相続したばかりだから短期で39.63%かかる」というのは誤解です。
なお、この「所有期間の引き継ぎ」は取得費についても同じです。親が買った金額をそのまま自分の取得費として使えます。
相続税の申告と譲渡所得の申告は別物
ここで整理しておきたいのが、2つの税金の関係です。混同している方が非常に多い部分です。
| 相続税 | 譲渡所得税 | |
|---|---|---|
| 何に対する税か | 財産を受け継いだこと | 財産を売って利益が出たこと |
| 誰に課される | 相続人 | 売った人 |
| 期限 | 相続開始から10か月 | 売った年の翌年3月15日 |
| かからない場合 | 遺産が基礎控除以下 | 譲渡益が出ない |
| 評価の基準 | 路線価・固定資産税評価額 | 実際の売買価格 |
重要なのは、相続税がかからなかったからといって、譲渡所得税もかからないとは限らないことです。
たとえば地方の実家で、相続税評価額(路線価ベース)は1,200万円だったとします。基礎控除4,200万円以下なので相続税はゼロ。しかし実際に2,000万円で売れて、取得費が概算取得費100万円しかなければ、約1,800万円の譲渡益に対して課税されます。
逆に、相続税を納めた人は取得費加算という選択肢が増えます。相続税の申告書は譲渡所得の申告で必要になるので、捨てずに保管してください。
なお、相続税の申告で小規模宅地等の特例を使って評価額を8割下げた場合でも、譲渡所得の計算には影響しません。取得費は親が買ったときの金額であり、相続税評価額とは無関係だからです。
【最重要】空き家の3,000万円特別控除

相続した実家を売るときの、最大の節税策です。譲渡益から最大3,000万円を控除できます。
正式名称は「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」といいます。
適用要件
次の要件をすべて満たす必要があります。
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
- 区分所有建物登記がされていないこと(分譲マンションは対象外)
- 相続開始の直前に被相続人が一人で住んでいたこと
- 相続時から売却時まで、事業・貸付け・居住に使っていないこと
- 売却代金が1億円以下であること
- 耐震基準に適合させるか、建物を取り壊して売ること
- 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 2027年(令和9年)12月31日までの譲渡であること
2024年の改正で使いやすくなった点
2024年1月1日以降の譲渡から、売却後の翌年2月15日までに買主が耐震改修または取壊しを行った場合も対象になりました。
改正前は、売主が自腹で先に解体してから売る必要がありました。解体費100万〜200万円を先払いし、売れなければ丸損というリスクがあったのです。改正後は買主に解体してもらう前提で売れるようになり、資金負担が大きく下がりました。
相続人が3人以上だと控除額が減る
一方で、2024年1月1日以降の譲渡では、その家屋を相続した人が3人以上いる場合、控除額は1人あたり2,000万円に縮減されます。
| 相続人の数 | 1人あたりの控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,000万円 |
| 2人 | 3,000万円 |
| 3人以上 | 2,000万円 |
兄弟3人で実家を共有相続して売る場合、以前は1人3,000万円×3人=9,000万円まで控除できましたが、現在は2,000万円×3人=6,000万円になります。
老人ホームに入所していた場合
「相続開始の直前に被相続人が住んでいた」という要件について、老人ホームに入所していた場合も、一定の条件を満たせば適用できます。
- 要介護認定等を受けて、老人ホーム等に入所していたこと
- 入所直前まで、その家屋に一人で住んでいたこと
- 入所後、その家屋を事業・貸付け・他人の居住に使っていないこと
実家じまいの相談で非常に多いパターンなので、必ず確認してください。
「一人で住んでいた」の判定は厳密
要件3の「相続開始の直前に被相続人が一人で住んでいた」は、思っている以上に厳しく見られます。
- 同居していた家族がいた場合は対象外……配偶者や子と同居していたなら使えません
- 二世帯住宅は構造による……区分所有登記されていれば対象外です
- 住民票だけの同居は問題ない場合も……実態として住んでいなければ、事情を説明できる資料が要ります
「亡くなる直前の数か月だけ、子が介護のために泊まり込んでいた」というケースは判断が割れます。生活の本拠がどこにあったかで判定されるため、住民票を移していなければ同居とは扱われないのが一般的ですが、自己判断は避けてください。
また、被相続人が老人ホームに入所していた場合の要件も細かく、次の3つをすべて満たす必要があります。
- 介護保険法の要介護認定・要支援認定等を受けていたこと
- 入所直前まで、その家屋に一人で住んでいたこと
- 入所後、その家屋を事業・貸付け・他人の居住に使っていないこと
「入所後、たまに子が帰省して泊まっていた」程度なら問題ありませんが、誰かが定期的に生活していれば「他人の居住」と判断されるおそれがあります。
この特例を使うときの注意点
- 確定申告が必須です。税額がゼロになっても申告しなければ適用されません
- 被相続人居住用家屋等確認書を、家屋がある市区町村で取得する必要があります
- 取得費加算の特例とは併用できません(後述)
取得費加算の特例
相続税を納めた人だけが使える特例です。
支払った相続税のうち、その不動産に対応する分を取得費に上乗せできます。取得費が増えれば譲渡所得が減り、税額が下がります。
適用要件
- 相続または遺贈により財産を取得した人であること
- その人に相続税が課税されていること
- 相続開始のあった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡すること
3つ目は、実質的に相続開始から3年10か月以内という意味です。
加算できる金額
その相続人が納めた相続税額のうち、売却した不動産の相続税評価額が占める割合に応じた金額です。
加算額 = その人の相続税額 × 売った不動産の相続税評価額 ÷ その人が取得した財産の合計額
相続税を1,000万円納め、そのうち実家の評価額が財産全体の40%を占めるなら、400万円を取得費に加算できます。
どちらが得か?3ケースで試算する

空き家の3,000万円特別控除と取得費加算の特例は、併用できません。どちらか有利なほうを選びます。
前提を揃えて比べてみます。
ケースA|相続税を納めていない(もっとも多い)
- 売却価格 2,000万円/取得費不明(概算取得費100万円)/譲渡費用80万円
- 相続税:かからなかった
| 3,000万円控除 | 取得費加算 | |
|---|---|---|
| 譲渡所得 | 1,820万円 | 1,820万円 |
| 控除・加算 | −1,820万円(3,000万円が上限) | 使えない |
| 課税譲渡所得 | 0円 | 1,820万円 |
| 税額 | 0円 | 約370万円 |
基礎控除内で相続税がかからなかった場合、選択の余地なく3,000万円控除です。そして効果は絶大です。
ケースB|相続税を納めた・譲渡益が中程度
- 売却価格 3,500万円/取得費不明(概算取得費175万円)/譲渡費用130万円
- 相続税:500万円納付、実家の評価額が財産全体の50%
| 3,000万円控除 | 取得費加算 | |
|---|---|---|
| 譲渡所得 | 3,195万円 | 3,195万円 |
| 控除・加算 | −3,000万円 | −250万円 |
| 課税譲渡所得 | 195万円 | 2,945万円 |
| 税額 | 約39万円 | 約598万円 |
差は約559万円。3,000万円控除が圧倒的に有利です。
ケースC|3,000万円控除の要件を満たさない
- 昭和57年建築のため、空き家特例の対象外
- 売却価格 4,000万円/取得費不明(概算取得費200万円)/譲渡費用150万円
- 相続税:800万円納付、実家の評価額が財産全体の60%
| 3,000万円控除 | 取得費加算 | |
|---|---|---|
| 譲渡所得 | 3,650万円 | 3,650万円 |
| 控除・加算 | 使えない | −480万円 |
| 課税譲渡所得 | 3,650万円 | 3,170万円 |
| 税額 | 約741万円 | 約644万円 |
要件を満たさなければ、取得費加算が唯一の選択肢になります。
判断の順番

- そもそも譲渡益が出るかを計算する(出なければ何もしなくてよい)
- 空き家の3,000万円特別控除の8要件を満たすか確認する
- 満たすなら3,000万円控除を選ぶ
- 満たさない、または譲渡益が小さくて相続税が大きいなら、取得費加算と比較する
2024年改正で増えた「買主に壊してもらう」売り方
改正でいちばん実務が変わったのがここです。ただし、契約のしかたを間違えると特例が飛びます。
何が変わったか
| 改正前(2023年まで) | 改正後(2024年1月1日以降) | |
|---|---|---|
| 解体するのは | 売主(引渡し前) | 売主または買主 |
| 期限 | 引渡しまで | 譲渡の翌年2月15日まで |
| 売主の資金負担 | 解体費100万〜200万円を先払い | ゼロにできる |
| 売れ残りリスク | 更地にして売れないと丸損 | 現況のまま売れる |
改正前は、売主が先に100万〜200万円を払って解体し、それから買主を探す必要がありました。売れなければ費用だけが残り、しかも建物がなくなったぶん固定資産税は最大6倍に跳ね上がります。これが空き家特例の使いにくさの原因でした。
実務で気をつける3点
1. 契約書に「買主が取り壊す」ことを明記する
売買契約書に、買主が譲渡の翌年2月15日までに取壊しを行う旨を特約として入れます。口頭の約束では、後から証明できません。
2. 取壊しの証拠を残してもらう
確定申告では、家屋を取り壊したことを示す取壊し後の登記事項証明書(滅失登記済み)が必要です。取り壊すのは買主なので、滅失登記の写しを送ってもらう段取りまで契約時に決めておきます。
3. 期限は「譲渡の翌年2月15日」
12月に売った場合、期限まで2か月しかありません。年末の売却は危険です。逆算すると、遅くとも秋には契約を済ませておきたいところです。
なお、耐震改修して売る選択肢もありますが、築45年以上の木造住宅を新耐震基準に適合させるには150万〜300万円かかることが多く、解体費と大差ありません。買主が古家をリフォームして使いたいという明確な意思がある場合を除き、取壊し前提で考えるのが現実的です。
共有名義で相続した実家を売るとき
兄弟姉妹で法定相続分どおりに共有相続するケースは多いのですが、税金の面では注意点が増えます。
全員が別々に申告する
共有不動産を売った場合、譲渡所得は持分に応じて各人に帰属します。3人で3等分なら、それぞれが自分の持分についての譲渡所得を計算し、個別に確定申告します。
空き家の3,000万円特別控除も、要件を満たせば各人がそれぞれ適用を受けられます。ただし前述のとおり、相続人が3人以上の場合は1人あたり2,000万円に縮減されます。
1億円の判定は全員合計
見落としが致命的になるのがここです。売却代金1億円以下という要件は、共有者全員の売却代金を合計して判定します。
3人で共有し、1億2,000万円で売れた場合、1人あたりの受取額は4,000万円ですが、全員が特例の対象外になります。都市部の実家では現実的に起こりうる話です。
一人でも反対すると売れない
共有不動産の売却には共有者全員の同意が必要です。一人でも反対すれば売却できません。
そして特例には期限があります。話し合いが長引くうちに3年が過ぎ、全員が3,000万円の控除を失うというのが最悪のパターンです。
| 状況 | 取りうる手段 |
|---|---|
| 一人が「まだ売りたくない」 | 他の相続人がその持分を買い取る |
| 連絡が取れない相続人がいる | 不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申立て |
| 話し合いが決裂した | 共有物分割請求(訴訟になると1年以上) |
代償分割という選択肢
一人が実家を単独で相続し、他の相続人に現金を渡す方法です。売却の意思決定が一本化されるので、期限管理がしやすくなります。
ただし、単独相続した人だけが売却して譲渡益を得るため、3,000万円の控除も一人分しか使えません。共有のまま売って各自が控除を使うほうが、税額の合計は小さくなることがあります。どちらが有利かは金額次第なので、税理士に試算してもらってください。
譲渡益が出ると、翌年の負担が上がる
見落とされがちですが、実害としては大きい話です。
譲渡所得は分離課税なので所得税・住民税の税率は一定ですが、その所得は各種の保険料や自己負担割合の判定には反映されます。
影響を受けるもの
| 項目 | 影響 |
|---|---|
| 国民健康保険料 | 翌年度の保険料が上がる(自治体により上限あり) |
| 後期高齢者医療保険料 | 同上 |
| 介護保険料 | 所得段階が上がり、保険料が上がる |
| 医療費の窓口負担割合 | 1割→2割、2割→3割に上がることがある |
| 高額療養費の自己負担限度額 | 区分が上がり、限度額が上がる |
| 保育料 | 住民税額で決まるため上がることがある |
とくに影響が大きいのが、年金生活の親が自宅を売った場合や、相続人自身が国民健康保険に加入している場合です。
たとえば譲渡益1,500万円が出ると、国民健康保険料は上限(自治体により年間100万円前後)まで跳ね上がることがあります。税金だけ計算して安心していると、翌年に思わぬ請求が来ます。
空き家特例を使えば影響も消える
救いがあります。空き家の3,000万円特別控除やマイホームの3,000万円控除を適用して課税譲渡所得がゼロになった場合、保険料の算定にも反映されません(特別控除後の金額で判定されるため)。
特例が使えるかどうかは、税額だけでなく翌年の生活コストまで左右します。
3年をどう使うか|逆算スケジュール

空き家の3,000万円特別控除の期限は、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日です。長そうに見えて、実際にはまったく余裕がありません。
| 経過時間 | やること | 所要 |
|---|---|---|
| 0〜3か月 | 相続人と方針を決める/相続放棄の判断 | 1〜3か月 |
| 3〜6か月 | 相続登記(司法書士に依頼) | 1〜2か月 |
| 6〜12か月 | 遺品整理・家財処分 | 1〜3か月 |
| 10か月 | 相続税の申告期限 | — |
| 12〜15か月 | 一括査定(現況・更地の両方) | 2週間〜1か月 |
| 15〜18か月 | 媒介契約・販売開始 | — |
| 18〜30か月 | 売却活動 | 3〜12か月 |
| 30〜33か月 | 売買契約・決済・引渡し | 1〜2か月 |
| 33〜36か月 | 買主による取壊し・滅失登記 | 1〜2か月 |
| 翌年3月15日 | 譲渡所得の確定申告 | — |
逆算すると、遅くとも相続から1年以内には査定を取っておく必要があります。
売却活動が長引くのはよくあることです。地方の築古住宅では半年から1年かかることも珍しくありません。「3年もあるから」と構えていると、残り半年で焦って値下げすることになります。
マイホームの3,000万円控除との違い
紛らわしいのですが、3,000万円の特別控除には2種類あります。
| 空き家の3,000万円控除 | マイホームの3,000万円控除 | |
|---|---|---|
| 対象 | 被相続人が住んでいた家 | 自分が住んでいた家 |
| 建築時期の要件 | 昭和56年5月31日以前 | なし |
| 区分所有建物 | 対象外 | 対象 |
| 耐震改修・取壊し | 必要 | 不要 |
| 売却期限 | 相続から3年経過日の年末 | 住まなくなってから3年経過日の年末 |
| 制度の期限 | 2027年12月31日まで | 期限なし |
親と同居していて、相続後もその家に住み続けた人が売る場合は、マイホームの3,000万円控除を使うことになります。この場合、建築時期や耐震改修の要件はありません。
なお、同じ年に両方の要件を満たしても、控除額の合計は3,000万円が上限です。二重取りはできません。
税金で失敗する5つのパターン

1. 賃貸に出してしまった
空き家特例は「相続時から売却時まで事業・貸付け・居住に使っていないこと」が要件です。「空けておくのはもったいないから」と1か月でも貸したら、その時点で3,000万円の控除が消えます。
2. 相続人の一人が住み始めた
同じ理由で対象外になります。「誰も住まないなら弟が使う」という判断が、数百万円の損失につながることがあります。
3. 期限を過ぎた
相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日が期限です。遺品整理・解体・売却活動を順にやっていくと、3年はあっという間に過ぎます。
4. 売却代金が1億円を超えた
都市部では起こりえます。しかもこの1億円は、共有者全員の売却代金の合計で判定されます。自分の持分だけで判断すると誤ります。
5. 申告しなかった
特例を使って税額がゼロになる場合でも、確定申告をしなければ特例は適用されません。「税金ゼロだから申告不要」は誤りです。
期限のまとめ

税金がらみの期限を、相続開始からの時間軸で並べます。
| 期限 | 内容 | 過ぎるとどうなるか |
|---|---|---|
| 4か月 | 準確定申告 | 加算税・延滞税 |
| 10か月 | 相続税の申告・納付 | 小規模宅地等の特例などが使えない |
| 3年 | 相続登記の申請義務 | 10万円以下の過料 |
| 3年10か月 | 取得費加算の特例 | 譲渡所得税が増える |
| 3年経過日の属する年の12月31日 | 空き家の3,000万円特別控除 | 最大3,000万円の控除を失う |
| 2027年12月31日 | 空き家特例の制度自体の期限 | 制度が使えなくなる |
| 売却の翌年3月15日 | 譲渡所得の確定申告 | 加算税・延滞税、特例の不適用 |
2024年3月以前に発生した相続については、相続登記の期限が2027年3月31日です。長年名義を放置している実家がある方は、残り時間がわずかです。
そして注意したいのが、いちばん下から2番目の制度自体の期限です。相続から3年の個別期限と、2027年12月31日という制度の期限。早く来るほうが効きます。2025年に相続が発生した方は、個別期限(2028年12月31日)より制度の期限(2027年12月31日)のほうが先に来ます。
確定申告の手順と必要書類

売却した年の翌年2月16日から3月15日の間に、住所地の税務署へ申告します。
提出書類
共通
- 確定申告書(第一表・第二表)
- 譲渡所得の内訳書(土地・建物用)
- 売買契約書の写し(売却時・購入時の両方)
- 仲介手数料などの領収書
- 登記事項証明書
空き家の3,000万円特別控除を使う場合
- 被相続人居住用家屋等確認書(家屋がある市区町村が発行)
- 耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書(耐震改修した場合)
- 家屋の取壊し後の登記事項証明書(取り壊した場合)
取得費加算の特例を使う場合
- 相続税の申告書の写し
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
被相続人居住用家屋等確認書の取得に時間がかかる
見落とされがちなのが、市区町村が発行する被相続人居住用家屋等確認書です。
申請から交付まで2週間から1か月程度かかる自治体が多く、必要書類も多岐にわたります。電気・ガス・水道の使用中止日がわかる書類、家屋の取壊し費用の請求書など、売却前に用意しておくべきものが含まれます。
申告直前に動き出すと間に合いません。売却を決めた段階で、家屋がある市区町村の窓口に必要書類を確認してください。
売却後に届く「お尋ね」への対応
不動産を売却すると、その情報は法務局の登記から税務署に伝わります。翌年になっても申告がないと、税務署から「譲渡所得の申告についてのお尋ね」という文書が届くことがあります。
届いても慌てなくてよい
これは調査ではなく、「売却したようですが、申告は必要ですか」という確認です。次のいずれかに当てはまれば、その旨を回答すれば済みます。
- 譲渡益が出ていない(取得費と譲渡費用の合計が売却価格を上回る)
- 特例を適用して課税所得がゼロになる(この場合は申告が必要)
- そもそも売却していない(相続登記だけだった等)
回答書には、売却価格・取得費・譲渡費用を記入する欄があります。計算した結果を書いて返送すれば手続きは終わります。
無視するとどうなるか
放置すると、税務署は概算取得費5%で計算した金額を前提に接触してきます。契約書があって本当は赤字だったとしても、自分から申し出なければ有利な数字は使われません。
そして申告期限を過ぎてから納税することになると、次の負担が加わります。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 無申告加算税 | 本来の税額の15〜30%(自主的な期限後申告なら5%) |
| 延滞税 | 法定納期限の翌日から納付日まで日割り |
| 特例の不適用 | 期限内申告が要件の特例は使えなくなることがある |
いちばん怖いのが3つ目です。空き家の3,000万円特別控除は、確定申告をして初めて適用されます。
申告を忘れた・間違えたときの対処
申告を忘れていた場合(期限後申告)
気づいた時点ですぐに申告してください。税務署の調査を受ける前に自主的に申告すれば、無申告加算税は5%に軽減されます。調査通知後だと10〜25%、調査を受けてからだと15〜30%です。
空き家の3,000万円特別控除については、期限後申告でも適用が認められる場合があります。ただし確実ではないため、「期限内に申告する」以外の道を前提にしないでください。
税額を多く申告してしまった場合(更正の請求)
あとから購入時の契約書が見つかった、特例が使えることに気づいた——こうした場合は更正の請求をします。期限は、法定申告期限から5年以内です。
遺品整理の途中で古い契約書が出てくることは実際にあります。申告後でも、5年以内なら取り戻せます。
税額が少なかった場合(修正申告)
自主的に修正申告すれば、過少申告加算税はかかりません(調査通知後は5〜10%)。気づいた時点で対応するのが最善です。
売却前にやっておくと得すること
1. 購入時の契約書を探す
繰り返しになりますが、ここが最大の分岐点です。遺品整理を業者に頼む場合も、「権利証・購入時の売買契約書・住宅ローンの書類は捨てずに分けておいてほしい」と明確に伝えてください。
2. 現況と更地の両方の査定を取る
空き家特例を使うには耐震改修か取壊しが必要です。買主に解体してもらう選択肢も含め、現況でいくら・更地でいくらの2つの数字がないと判断できません。査定の取り方は相続した実家におすすめの不動産一括査定サービス比較にまとめています。
3. 相続登記を先に済ませる
名義が故人のままでは売買契約が結べません。買主が見つかってから登記を始めると1〜2か月止まり、話が流れることがあります。
4. 賃貸・利用の誘惑を断つ
空き家特例を使う予定なら、相続から売却まで何にも使わない。これが鉄則です。
5. 税理士に事前に試算してもらう
譲渡所得の申告は、相続税の申告とは別の手続きです。どちらの特例が有利かは数字を入れてみないとわかりません。相続税の申告を依頼した税理士に、そのまま譲渡所得の試算まで頼んでおくと効率的です。税理士費用の相場は相続税の税理士費用相場を参考にしてください。
自分で申告できるか、税理士に頼むか
譲渡所得の確定申告は、自分でもできます。分かれ目は次のとおりです。
| 自分でできる | 税理士に頼むべき |
|---|---|
| 購入時の契約書があり、金額が明確 | 取得費が不明で、推定計算を使いたい |
| 特例を使わない(譲渡益が出ない) | 空き家の3,000万円特別控除を使う |
| 単独名義で、売却が1件だけ | 共有で、相続人ごとに条件が違う |
| 相続税を納めていない | 取得費加算と3,000万円控除を比較したい |
税理士に依頼した場合の報酬は、譲渡所得の申告のみで8万〜15万円が目安です。相続税の申告とセットなら、追加5万〜10万円程度で対応してくれる事務所もあります。
控除額が3,000万円、税額にして600万円前後動く判断です。数万円の報酬を惜しんで要件判定を誤ると、桁が違う損失になります。相続税の申告を税理士に頼んだ方は、そのまま譲渡所得の試算までセットで依頼しておくのが合理的です。
税理士費用の相場と選び方は、相続税の税理士費用相場で詳しく解説しています。
よくある質問
Q. 兄弟3人の共有で相続した実家を売りました。3,000万円控除は誰が使えますか?
要件を満たせば、共有者それぞれが適用を受けられます。ただし2024年1月1日以降の譲渡では、相続人が3人以上の場合、1人あたりの控除額は2,000万円になります。3人なら合計6,000万円までです。
Q. 売却代金1億円の判定は、自分の持分だけですか?
いいえ。共有者全員の売却代金の合計で判定します。3人で共有し、それぞれ4,000万円ずつ受け取った場合、合計1億2,000万円となり、全員が対象外になります。
Q. 相続してから空き家のまま5年経ちました。もう控除は使えませんか?
空き家の3,000万円特別控除は使えません。取得費加算も3年10か月で期限切れです。ただし、そもそも譲渡益が出ていなければ税金はかかりません。まず実家じまいの進め方で全体像を確認し、査定を取って譲渡益が出るかを計算してください。
Q. 解体費用は経費になりますか?
土地を売るために建物を取り壊した場合、取壊し費用は譲渡費用として差し引けます。ただし取り壊してから売却までに長期間が空いたり、その間に駐車場として貸したりすると、認められないことがあります。
Q. 相続した実家を売って赤字になりました。他の所得と相殺できますか?
原則としてできません。土地・建物の譲渡による損失は、給与所得などとの損益通算が認められていません(マイホームの買換え等の特例を除く)。
Q. 相続税を払っていなくても確定申告は必要ですか?
相続税と譲渡所得税は別の税金です。相続税がかからなくても、売却して譲渡益が出れば譲渡所得の確定申告が必要です。逆に譲渡益が出ず、特例も使わないなら申告は不要です。
Q. 親が住んでいた家に、相続後に自分が住みました。空き家特例は使えますか?
使えません。「相続時から売却時まで居住・貸付け・事業に使っていないこと」が要件です。ただしその家に住み続けて自分のマイホームになった場合は、マイホームの3,000万円控除が使える可能性があります。
Q. 農地や山林も一緒に相続しました。同じように計算しますか?
譲渡所得の計算方法は同じですが、空き家の3,000万円特別控除の対象は「被相続人が住んでいた家屋とその敷地」に限られます。離れた場所にある農地・山林は対象外です。また農地の売買には農業委員会の許可が必要で、手続きも別になります。
Q. 実家を売る前に、庭木の伐採や残置物の処分をしました。これは経費になりますか?
いいえ。庭木の伐採費用や残置物(家財)の処分費用は、譲渡費用にも取得費にもなりません。譲渡費用として認められるのは「売るために直接必要だった費用」に限られ、遺品整理はこれに含まれないと解されています。建物の取壊し費用は譲渡費用になるので、混同しないでください。
Q. 売却代金を兄弟で分けました。税金は代表者がまとめて払うのですか?
いいえ。共有で相続した場合は持分に応じて各人に譲渡所得が帰属し、それぞれが自分で確定申告して納税します。代表者がまとめて申告することはできません。なお、遺産分割で一人が単独取得してから売却し、売却代金を分けた場合は、売った人に全額の譲渡所得が帰属します。分け方によって税負担がまったく変わるので、売る前に決めてください。
Q. 住民税はいつ、どうやって払いますか?
譲渡所得にかかる住民税5%は、確定申告の内容が市区町村に連携され、売却した年の翌年6月から納付が始まります。給与所得者で「特別徴収」を選ぶと毎月の給与から天引きされ、会社に不動産を売ったことが伝わります。知られたくない場合は、確定申告書の住民税欄で「自分で納付(普通徴収)」を選んでください。
Q. 2027年12月31日を過ぎたら、空き家特例はどうなりますか?
現時点(2026年9月)では、2027年12月31日までの譲渡が対象です。この制度は過去に何度か延長されていますが、延長を前提に計画を立てるのは危険です。期限内に売り切るスケジュールで動いてください。
まとめ
相続した実家の売却で押さえるべきことは、次の5つです。
- 税金がかかるのは譲渡益が出たときだけ。まず計算する
- 購入時の契約書の有無で数百万円変わる。遺品整理の前に探す
- 所有期間は親から引き継ぐので、相続直後に売っても長期譲渡の20.315%
- 空き家の3,000万円特別控除が使えるなら、ほぼこれ一択。取得費加算とは併用不可
- 賃貸に出す・誰かが住む・期限を過ぎるの3つで控除は消える
そして、いちばん多い失敗は「わからないから動かない」ことです。特例には期限があり、待っていて有利になることは一つもありません。
まずは現況と更地の両方の査定を取って、譲渡益が出るのかどうかをはっきりさせてください。そこが決まらないと、税金の話も解体の話も前に進みません。
この記事について
執筆:葉山 湊(はやま みなと)
自身の家族の実家じまいを経験し、そのときに「どこにも書かれていなかったこと」を出発点にこのサイトを立ち上げました。税理士・宅地建物取引士などの資格は保有していません。制度や税金については、必ず一次情報(国税庁・法務省・各自治体)にあたって記事に反映しています。
本記事の主な出典は次のとおりです。
・空き家の3,000万円特別控除:国税庁 No.3306
・取得費加算の特例:国税庁 No.3267
・長期譲渡所得の税額の計算:国税庁 No.3208
・相続登記の義務化:法務省「相続登記の申請義務化について」
制度・税制は改正されます。本記事の内容は2026年9月3日時点の公表情報にもとづきます。 実際の判断は、税理士・司法書士・不動産会社など専門家にご確認ください。当サイトは個別の税務相談・法律相談には応じられません。


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