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親が亡くなり、実家をきょうだい3人の共有名義にした。 それから数年、誰も住まず、誰も決めない。
売ろうとして初めて、「全員の同意がないと売れない」という壁に突き当たります。1人が反対すれば、それで止まります。
この記事では、同意が取れないときに何ができるのかを、民法の条文と、2023年4月に施行された改正内容にそって整理します。
結論を先に言うと、打つ手は4つです。全員で売る/自分の持分だけ売る/共有物分割を請求する/共有のまま持ち続ける。 それぞれ、かかる時間と手取りがまったく違います。

結論|先に3つ言っておきます

1. 家ごと売るには、共有者全員の同意が要る
1人でも反対すれば売れません(民法251条)。持分の多数決でも足りません。
2. 自分の持分だけなら、単独で売れる
他の共有者の同意は不要です(民法206条)。ただし買い手は持分専門の業者に限られ、価格は持分相当額の3〜5割程度まで下がります。
3. 話し合いで決まらないなら、共有物分割請求という手段がある
裁判所に分割を求められます(民法256条・258条)。2023年の改正で、賠償分割が明文化され、所在不明の共有者への手続きも整備されました。
そのうえで、実務でいちばん現実的なのは「全員で売って現金で分ける」(換価分割)です。もめにくく、手取りも最大になります。
そもそも、なぜ共有名義になるのか

1. 相続で、分けずに登記した
いちばん多い経路です。遺産分割がまとまらないまま、法定相続分で相続登記をした、あるいは「とりあえず全員の名義にしておこう」と決めたケース。
2. 親子・夫婦で資金を出し合って買った
出資割合に応じて持分を登記します。 親が亡くなると、親の持分が相続人に分かれ、共有者が増えます。
3. 贈与や生前対策で分けた
相続税対策で持分を少しずつ贈与した結果、共有者が増えていることがあります。
「とりあえず共有」がいちばん危ない
相続の場面では、「決められないから、いったん全員の名義に」という判断がよく行われます。
これは問題の先送りです。その時点では3人で話せたのに、10年後には相続が重なって当事者が増えている——これが実際に起きます。
遺産分割の段階で「誰が取得するか」を決めておくのが、いちばん安く済む方法です。
なぜ全員の同意が要るのか

共有物にできる行為は、3つに分かれています。
| 区分 | 必要な同意 | 具体例 |
|---|---|---|
| 保存行為 | 各共有者が単独でできる | 修繕、不法占拠者への明渡し請求 |
| 管理行為 | 持分の過半数 | 賃貸(短期)、軽微な変更、管理者の選任 |
| 変更・処分行為 | 全員の同意 | 売却、建物の取り壊し、大規模な改築 |
(民法249条〜252条)
売却は「処分行為」にあたる
だから全員の同意が要ります。持分が3分の2あっても、残り3分の1が反対すれば売れません。
2023年4月の改正で少し緩んだ部分
形状または効用の著しい変更を伴わない変更(軽微変更)は、持分の過半数でできるようになりました(民法251条1項かっこ書、252条1項)。
ただし売却は依然として全員の同意が必要です。ここは変わっていません。
賃貸に出す場合
建物なら3年以内の賃貸借は管理行為として、持分の過半数で決められます(民法252条4項)。「売れないから貸す」は、過半数があれば可能です。
相続登記が済んでいないなら、そこから
登記が終わっていないと、共有のままでも売れません。 2024年4月から3年以内が義務です。代行費用は見積もりだけ取れます。
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持分割合はどう決まるのか

遺産分割協議で決めた場合
協議で自由に決められます。 「長男2分の1、長女・次女が各4分の1」といった配分も可能です。協議書に記載し、そのとおりに登記します。
協議をしないまま登記した場合
法定相続分になります。
| 相続人 | 法定相続分 |
|---|---|
| 配偶者と子 | 配偶者2分の1、子が残り2分の1を等分 |
| 子のみ(3人) | 各3分の1 |
| 配偶者と親 | 配偶者3分の2、親3分の1 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1 |
自分の持分を確認する方法
登記事項証明書(法務局で取得、1通600円)に、共有者と持分が記載されています。オンライン請求なら480〜500円です。
「たしか3分の1のはず」で進めず、必ず現物を確認してください。 代を重ねた物件では、想定と違うことがあります。
持分は「面積」ではない
3分の1の持分は、「土地の3分の1の面積を使える」という意味ではありません。 建物全体・土地全体に対する、割合的な権利です。特定の部屋を占有する権利ではない点に注意してください。
話し合いがまとまらないときの調停の費用と期間は、遺産分割調停の進め方で詳しく説明しています。
相続人の組み合わせごとの取り分は、法定相続分の割合で詳しく説明しています。
同意なしでできること・できないこと

| やりたいこと | 単独でできるか |
|---|---|
| 実家全体を売る | できない(全員の同意) |
| 自分の持分を売る | できる |
| 自分の持分を贈与する | できる |
| 自分の持分を担保に入れる | できる |
| 建物を取り壊す | できない(全員の同意) |
| 雨漏りを修繕する | できる(保存行為) |
| 共有物分割を請求する | できる |
| 相続登記をする | できる(法定相続分での登記) |
「持分を売る」は最終手段
単独でできるのは事実ですが、手取りは大きく減ります。 他の共有者との関係も決定的に悪くなります。
順番としては、①全員で売る → ②分割請求 → ③持分売却と考えてください。
選択肢1|全員で売って現金で分ける

いちばん手取りが多く、いちばんもめにくい方法です。
流れ
- 相続登記を済ませる(共有のまま登記して構いません)
- 全員で方針と最低価格を決め、書面にする
- 窓口を1人に決める
- 複数社に査定を依頼する
- 売買契約は共有者全員が売主として署名する(代理も可)
- 決済後、持分割合に応じて分配する
全員が決済に立ち会えない場合
委任状と印鑑証明書で代理人を立てられます。遠方や高齢の共有者がいる場合は、この形が一般的です。
先に決めておく5つ
- 最低売却価格(この額を下回るなら売らない)
- 値下げの判断を誰がするか
- 買取に切り替える条件(例:6か月動かなかったら)
- 測量・解体・片付けの費用を誰が立て替えるか
- 代金の分け方(持分どおりか、立替分を精算するか)
この5つを書面にしておくと、買付が入ってから揉めません。
話を始める前に、共通の数字を1つ持つ
「安すぎる」「もっと出るはず」という議論は、査定額がないまま始まります。 複数社の査定書を並べると、共有者全員の前提がそろいます。
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代理人に手続きを頼むときの委任状の書き方については、相続手続きの委任状の書き方にまとめています。
選択肢2|自分の持分だけを売る

他の共有者の同意なしで売れます(民法206条)。ただし代償が大きい方法です。
買い手は限られる
- 一般の個人は買いません。 買っても、その家に住めないためです
- 共有持分を専門に扱う買取業者が主な買い手です
- 他の共有者が買い取るケースもあります
価格の目安
持分割合に応じた金額の3〜5割程度が目安です。
3,000万円の実家を3人で共有(各3分の1)している場合:
- 持分相当額:1,000万円
- 持分だけの売却額の目安:300万〜500万円
同じ持分を、全員で売って分ければ1,000万円。 差は500万〜700万円です。
買った業者は何をするか
- 他の共有者に「持分を買い取りませんか」と持ちかける
- 共有物分割請求訴訟を起こす
- 賃料相当額を請求する
残された共有者にとっては、見知らぬ業者と共有関係になることになります。関係が決定的に壊れる前提で判断してください。
他の共有者に先に打診する
まず「私の持分を買い取ってくれないか」と提案するのが順序です。業者に売られるより、身内で解決したいと考える共有者は多いです。
訴訟に進む前に、複数社の無料査定で「いくらで売れるか」を全員に示すほうが早いことがあります。
選択肢3|共有物分割請求

共有者は、いつでも共有物の分割を請求できます(民法256条)。話し合いがつかなければ、裁判所に分割を求められます(民法258条)。
分割の方法は3つ
| 方法 | 内容 | 実家での現実性 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 土地を分筆して分ける | 建物があると困難 |
| 賠償分割(全面的価格賠償) | 1人が取得し、他に金銭を支払う | 資力があれば有力 |
| 換価分割 | 競売にかけて代金を分ける | 最終手段。安くなる |
2023年4月の改正で明文化された
改正前は判例の積み重ねで運用されていた賠償分割が、民法258条2項に明記されました。裁判所は、現物分割か賠償分割かを選べるとされ、いずれもできない場合に競売という順序になっています。
手続きの流れ
- 共有者間で協議する(まずここが必須)
- まとまらなければ、地方裁判所に共有物分割訴訟を提起
- 判決で分割方法が決まる
時間と費用
- 訴訟は半年〜2年かかることが多い
- 弁護士費用は着手金・報酬あわせて数十万円〜
- 競売になると、市場価格の6〜7割程度まで下がることがある
「請求できる」ことと「得になる」ことは別です。訴訟に至る前に、話し合いで決着させるほうが手取りは多くなります。
自分が買い取る側になる場合

「実家を残したい」「自分が住み続けたい」という場合、他の共有者の持分を買い取る方法があります(賠償分割)。
価格の決め方
時価×持分割合が基本です。時価は複数社の査定額を基準にするのが、いちばん揉めません。
3,000万円の実家をきょうだい3人で共有し、1人が取得する場合:
- 他の2人へ、各1,000万円
- 合計2,000万円を用意する必要がある
安く買おうとすると贈与税の問題が出る
著しく低い価額で買うと、差額が贈与とみなされます(相続税法7条)。「身内だから半額で」は、税務上のリスクを生みます。
査定書を根拠として残しておくと、価格の妥当性を説明できます。
資金をどう用意するか
- 自己資金
- 金融機関の住宅ローン:親族間売買に対応する金融機関は限られます。 取扱実績のあるところを探す必要があります
- ノンバンクの不動産担保ローン:金利は高めですが、審査は通りやすい傾向
- 代償金の分割払い:協議書に支払時期と方法を明記する
住宅ローン控除は、生計を一にする親族からの取得では使えません。 資金計画に織り込んでおいてください。
登記と費用
- 所有権移転登記の登録免許税:固定資産税評価額×2%(売買の場合)
- 司法書士報酬:5万〜10万円程度
- 売った側には譲渡所得税がかかる
所在が分からない共有者がいるとき

代を重ねた実家では、面識のない共有者が出てきます。 2023年4月の改正で、この場合の手続きが整備されました。
新設された制度
| 制度 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 所在等不明共有者の持分の取得 | 裁判所の決定で、その持分を取得できる | 民法262条の2 |
| 所在等不明共有者の持分の譲渡権限付与 | 裁判所の決定で、第三者への譲渡権限を得られる | 民法262条の3 |
| 所在等不明共有者以外による変更・管理 | 裁判所の決定で、残りの共有者だけで決められる | 民法251条2項・252条2項 |
どう使うか
実家全体を売りたいのに1人の所在が分からない場合、民法262条の3の「譲渡権限の付与」を使えば、その持分も含めて第三者に売却できます。
手続きの流れ
- 裁判所に申立て(地方裁判所)
- 公告・登記簿や住民票の調査で「所在等不明」を証明
- 時価相当額を供託
- 裁判所の決定
- 売却
注意点
- 相続開始から10年を経過していない場合、相続人が所在不明であっても、この制度は使えません(民法262条の2第3項、262条の3第2項)
- 申立てから決定まで数か月かかります
- 供託金が必要です
時間はかかりますが、「一生売れない」状態から抜ける道はあります。 司法書士か弁護士に相談してください。
連絡の取れない相続人がいるときの不在者財産管理人の選任は、相続人が行方不明のときの手続きで詳しく説明しています。
実家に共有者の1人が住んでいる場合

きょうだいの1人が実家に住み続けている——共有名義でいちばん多い膠着です。
住んでいる側は、出ていく義務があるのか
ありません。 共有者は、持分に応じて共有物の全部を使用できるとされています(民法249条1項)。持分が3分の1でも、家全体を使えます。
「出ていけ」と言っても、原則として通りません。
ただし、使用の対価を払う義務がある
2023年4月の改正で、共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負うことが明記されました(民法249条2項)。
つまり、住んでいる人は、他の共有者に賃料相当額を払う義務があります。
いくら請求できるのか
近隣の賃料相場×他の共有者の持分割合が目安です。
賃料相場が月8万円、住んでいない2人が各3分の1なら:
- 月8万円 × 3分の1 = 約2.7万円/人
- 年間で約32万円/人
「別段の合意」に注意
親の生前から無償で住むことを認めていた、介護の見返りとして住まわせていたといった事情があると、使用貸借の合意があったと判断されることがあります。過去の経緯を確認してください。
善管注意義務も明記された
共有物を使用する共有者は、善良な管理者の注意をもって使用しなければならないとされています(民法249条3項)。壊した場合は賠償責任を負います。
現実的な着地
- その人が他の持分を買い取る(賠償分割)
- 賃料相当額を払ってもらい、当面は現状維持
- 期限を決めて、全員で売る
「使用の対価を請求できる」という事実を共有するだけで、話が動くことがあります。
共有者が認知症のとき

共有者の1人が認知症で判断能力を失っていると、その人の同意が取れません。
そのままでは売れない
売買契約は法律行為なので、意思能力を欠く人の契約は無効です(民法3条の2)。代わりに署名することもできません。
成年後見人を選任する
家庭裁判所に申し立て、成年後見人が本人に代わって契約します。
- 居住用不動産の売却には、家庭裁判所の許可が必要(民法859条の3)
- 申立てから売却まで8か月〜1年を見ておく
- 後見は本人が亡くなるまで続き、報酬が発生し続ける
親が元気なうちなら、別の手がある
家族信託や任意後見を使えば、後見を経ずに売却できます。ただし、判断能力があるうちにしか契約できません。
共有者に高齢の方がいるなら、売却の話を進める前に家族信託の無料相談で費用と手順を確かめておくと、後見で1年止まる事態を避けられます。
詳しくは親が認知症になると実家は売れないにまとめています。
自分の持分だけ売る場合
認知症の共有者がいても、自分の持分は単独で売れます。 ただし買った業者が、認知症の共有者に対して分割請求を起こすという展開になりかねません。慎重に判断してください。
持分の価格も、先に把握しておく
業者から連絡が来てから調べ始めると、言い値になります。 自分の持分がいくらかを知っておくと、交渉の土台ができます。
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業者から「持分を買い取りたい」と連絡が来たら

共有者の誰かが持分を売った結果、あるいは営業として、突然連絡が来ることがあります。
まず確認すること
- 登記事項証明書を取り、共有者が変わっていないかを確認する
- 誰の持分が動いたのかを特定する
- 他の共有者に連絡し、事実を共有する
業者が持分を取得している場合
その業者は、共有者としての権利を持っています。次のように動くのが一般的です。
- 残りの共有者に「持分を買い取りませんか」と提案する
- 「うちの持分を買い取ってください」と持ちかける
- 共有物分割請求訴訟を起こす
- 賃料相当額(不当利得)を請求する
取りうる対応
| 対応 | 内容 |
|---|---|
| 業者から買い戻す | 単独名義にできるが、業者の言い値になりやすい |
| 自分の持分も売る | 共有関係から抜けられる。ただし価格は下がる |
| 全体を売って分ける | 業者も含めて合意できれば、手取りは最大 |
| 分割請求に応じる | 裁判所の判断に委ねる。時間と費用がかかる |
すぐに署名しない
「今日中に返事を」と急かされたら、その時点で一度止めてください。 共有物分割請求には時間がかかるため、業者にも急ぐ理由があります。
司法書士か弁護士に相談してから返答するのが安全です。
いちばん良いのは「全体を売る」
業者にとっても、持分だけで持ち続けるより、全体を売って持分相当額を受け取るほうが得です。交渉の余地はあります。
「安すぎる」という反対には、査定書を並べるのがいちばん効きます。
反対する共有者への進め方

「反対している」の中身を分けて考えてください。 対応がまったく違います。
| 反対の理由 | 対応 |
|---|---|
| 価格に納得していない | 複数社の査定書を並べる |
| 実家に思い入れがある | 時期を区切る。写真・記録を残す提案をする |
| 自分が住みたい | 賠償分割(買い取ってもらう)を検討 |
| 手続きが面倒 | 窓口を引き受け、委任状で完結させる |
| 他の相続で不満がある | 実家だけでなく、全体の精算として話す |
査定書が効く理由
「安すぎる」という反対の多くは、根拠のない期待値から来ています。複数社の査定書が並ぶと、「その会社が安く見ているだけ」と言えなくなります。
期限を区切る
「1年売れなければ買取に切り替える」といった条件を先に決めておくと、決められないまま時間だけ過ぎる状態を防げます。
維持費の負担を数字で示す
共有のまま持ち続けると、固定資産税・保険・管理費がかかり続けます。
- 固定資産税・都市計画税:年10万〜20万円
- 火災保険(空き家料率):年2万〜6万円
- 管理・草刈り:年5万〜15万円
年20万〜40万円を、持分割合で負担し続けるという事実を共有すると、話が動くことがあります。
それでも動かないなら
共有物分割請求を検討していることを伝える段階になります。訴訟をちらつかせるのではなく、「このままだと制度に頼るしかない」と事実を共有するのが実務的です。
固定資産税を誰も払わないとき

共有者は連帯して納める義務を負う
共有物にかかる固定資産税は、共有者全員が連帯納税義務を負います(地方税法10条の2)。
自治体は、代表者1人に納税通知書を送ります。 その1人が払わなければ、他の共有者に請求が行きます。
代表者は誰になるのか
自治体が持分の大きい人、その地域に住んでいる人、登記の筆頭者などから選びます。申し出れば変更できる自治体もあります。
立て替えた分は請求できる
払った共有者は、他の共有者に持分割合に応じて求償できます(民法442条)。
- 納税通知書と領収書を保管する
- いつ、いくら払ったかを記録に残す
- 売却時に、代金から精算する
放置するとどうなるか
- 督促状が届く
- 延滞金が加算される
- 財産の差押え(給与・預金・不動産)
差押えは、代表者だけでなく、どの共有者に対しても行われうる点に注意してください。
売却時にまとめて精算するのが実務的
「誰が何を立て替えたか」を一覧にして、決済時に代金から差し引く——この形にしておけば、毎年の負担でもめずに済みます。
固定資産税を含む維持費の全体像は実家を空き家のまま放置する6つのリスクにまとめています。
売却代金の分け方と税金

分け方
持分割合に応じて分けるのが原則です。立て替えた費用(測量・片付け・解体)は、先に精算してから分けます。
譲渡所得は共有者ごとに計算する
売却代金を一括で受け取っても、税金は各自が自分の持分について申告します。
- 譲渡所得=(売却価格-取得費-譲渡費用)×持分割合
- 確定申告は各共有者が個別に行う
特別控除も共有者ごと
空き家の3,000万円特別控除は、要件を満たす共有者それぞれが適用できます(租税特別措置法35条3項)。
ただし2024年1月1日以後の譲渡では、相続人が3人以上の場合、1人あたりの控除額は2,000万円に縮減されます。
代表者が一括で受け取ると贈与になることがある
1人の口座に全額を入れて、あとで分ける形にすると、一時的に代表者のものと見られる恐れがあります。
- 遺産分割協議書に「換価分割により、売却代金を持分に応じて分配する」と明記する
- 決済時に、各共有者の口座へ直接振り込んでもらう
この2つをやっておけば、贈与と見られる余地はほぼなくなります。
税金の全体像は相続した実家の売却にかかる税金に、判断に迷う場合は相続に強い税理士の無料紹介を使ってください。
共有のまま放置するとどうなるか

相続人が倍々に増える
いま3人の共有でも、それぞれが亡くなれば、その相続人に持分が移ります。
- 3人 → 次の世代で6〜9人
- さらに次で十数人
- 面識のない親族と共有することになる
人数が増えるほど、全員の同意は取れなくなります。
相続登記は義務
2024年4月1日から、相続登記は義務化されました。 相続を知った日から3年以内に登記しないと、10万円以下の過料の対象です(不動産登記法76条の2、164条)。
共有のままでも登記はできます。 「話がまとまらないから登記しない」は理由になりません。
空き家としてのリスクも積み上がる
- 特定空家に指定されると、固定資産税が最大6倍
- 倒壊・落下で損害賠償を負う可能性
- 維持費が毎年出ていく
放置のリスクは実家を空き家のまま放置する6つのリスクにまとめています。
「決めない」が最も高くつく
共有は、時間が経つほど解消が難しくなる財産の持ち方です。いま3人で話せるうちに決めるのが、いちばん安く済みます。
ケース別|3つの実例

ケース1|きょうだい3人。1人が価格に反対
長男が「3,000万円は下らない」と主張し、2年動かず。
3社から査定を取得したところ、2,280万〜2,450万円。 数字を並べて共有したところ、長男が「思っていたより低いが、根拠は分かった」と納得。
2,380万円で成約。3人で約793万円ずつ分配しました。
ケース2|共有者の1人が所在不明
父の代からの共有で、いとこにあたる共有者と20年以上音信不通。
民法262条の3の譲渡権限付与を申し立て、住民票と戸籍の附票の調査、公告を経て、時価相当額を供託。 申立てから決定まで約7か月。
その後、実家全体を1,650万円で売却。 「一生売れない」と思っていた状態から抜けられました。
ケース3|1人が住み続けたいと主張
次女が実家に住んでおり、売却に反対。他の2人は現金化を希望。
賠償分割の形で、次女が2人の持分を買い取ることに。 査定額2,100万円を基準に、1人700万円×2人=1,400万円を次女が支払い、単独名義に。
次女は住宅ローン(親族間売買に対応する金融機関)で資金を用意しました。
3つに共通すること
いずれも「数字を共有すること」で動いています。 感情の対立に見えて、実は前提がそろっていないだけということが多いです。
よくある失敗5つ

1. 査定を1社しか取らない
「安すぎる」という反対に、反論できません。 複数社を並べるのが最短です。
2. 代表者の口座に全額を入れる
贈与と見られる余地を残します。 協議書への明記と、各口座への直接振込で防げます。
3. 相続登記を後回しにする
登記しないと売れません。 3年以内の義務でもあります。
4. 感情の話と金額の話を混ぜる
「思い入れ」と「価格」は別の議題です。分けて話すと進みます。
5. 黙って持分を売る
関係が壊れ、残った共有者は業者と対峙することになります。 最終手段として、先に身内へ打診してからにしてください。
よくある質問
Q. 持分の過半数があれば売れませんか?
A. 売れません。 売却は変更・処分行為なので、共有者全員の同意が必要です(民法251条1項)。過半数で決められるのは管理行為までです。
Q. 共有者の1人が海外にいます
A. 売れます。 委任状と、現地の日本大使館・領事館で取得するサイン証明(署名証明)と在留証明で対応します。印鑑証明書の代わりになります。時間がかかるので早めに手配してください。
Q. 持分を売るとき、他の共有者に知らせる義務はありますか?
A. 法律上の義務はありません。 ただし知らせずに売ると、残された共有者は業者から連絡を受けて初めて知ることになります。実務上は、先に打診するのが順序です。
Q. 共有物分割請求をされたらどうなりますか?
A. 協議 → 訴訟という流れになります。判決では現物分割・賠償分割・競売のいずれかが選ばれます。競売になると価格が下がるので、訴訟の前に話し合いで決着させるほうが、双方の手取りが多くなります。
Q. 共有名義のまま賃貸に出せますか?
A. 建物なら3年以内の賃貸借は、持分の過半数で決められます(民法252条4項)。ただし一度貸すと、空き家の3,000万円特別控除は使えなくなります。
Q. 固定資産税は誰が払いますか?
A. 共有者は連帯して納付義務を負います。 自治体は代表者に納税通知書を送りますが、内部的には持分割合で負担するのが原則です。立て替えた分は記録を残してください。
Q. 兄が勝手にリフォームしました
A. 大規模な改築は変更行為なので、全員の同意が必要です。同意なく行われた場合、原状回復や費用負担をめぐって争いになります。 保存行為(雨漏りの修繕など)は単独でできます。
Q. 共有を解消して1人の名義にしたいのですが
A. 持分の売買か贈与で移します。贈与では贈与税がかかるため、売買(賠償分割)の形にするのが一般的です。登記費用と譲渡所得税が発生します。
Q. 共有者の1人が「絶対に売らない」と言い続けています
A. 共有物分割請求という手段があります(民法256条)。ただし訴訟は半年〜2年、費用も数十万円かかります。その前に、維持費の負担額と使用の対価(民法249条2項)を数字で示すと、動くことがあります。
Q. 遺産分割協議がまだ終わっていません。売れますか?
A. 相続人全員の同意があれば売れます。 協議書に「換価分割により売却し、代金を法定相続分で分ける」と記載する形が一般的です。協議がまとまらない場合は、法定相続分での相続登記をしたうえで、共有物として扱います。
Q. 相続開始から10年以上経っています
A. 2023年4月の改正で、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として法定相続分(または指定相続分)によることになりました(民法904条の3)。寄与分や特別受益の主張ができなくなります。 長く放置するほど、主張できることが減ります。
Q. 持分買取業者に売った場合、税金はどうなりますか?
A. 譲渡所得として課税されます。 空き家の3,000万円特別控除は、家屋または家屋とその敷地を売る場合の特例なので、持分のみの譲渡でも要件を満たせば適用できる場合があります。 個別性が高いので税理士に確認してください。
Q. 共有者の1人が破産しました。実家はどうなりますか?
A. 破産した共有者の持分が、破産財団に組み込まれます。 破産管財人がその持分を売却するか、共有物分割請求を起こすことがあります。他の共有者は、管財人から持分の買取を打診されることが多いです。早い段階で弁護士に相談してください。
Q. 建物だけ共有で、土地は1人の名義です
A. 建物と土地で権利者が違うため、そのままでは買い手がつきにくい状態です。建物の共有者全員と、土地の所有者がそろって売るのが基本です。土地に借地権が設定されているかどうかでも扱いが変わるので、登記事項証明書を両方取って確認してください。
Q. 空き家のまま10年経っています。いまからでも売れますか?
A. 売れます。 ただし相続登記が済んでいることが前提で、2024年4月から3年以内の登記が義務です。また空き家の3,000万円特別控除は相続から3年を経過する年の12月31日までなので、10年経っていれば、この特例は使えません。 譲渡所得税の負担を織り込んで判断してください。
まとめ|数字を共有すれば、たいてい動く

進める順番
- 相続登記を済ませる(共有のままでよい)
- 複数社の査定を取り、全員に共有する
- 最低価格・値下げの判断・費用負担・分け方を書面にする
- 窓口を1人に決める
- 全員で売る(換価分割)
- まとまらなければ、賠償分割を検討する
- 所在不明者がいるなら、民法262条の3を使う
- 最終手段として、共有物分割請求か持分売却
共有名義の実家は「売れない」のではなく、「決まらない」だけであることがほとんどです。
そして、決まらない理由の多くは、金額の前提がそろっていないことです。査定書を1つ用意するだけで動き出すケースは、実際に多いです。
実家じまい全体の進め方は実家じまいの進め方に、売れないときの立て直しは実家が売れないに、告知事項がある場合は孤独死した実家は売れる?にまとめています。
まず、全員が見られる数字を1つ作る
「いくらで売れるか」が分からないまま話し合っても、まとまりません。 査定は無料で、売ると決めていなくても、相続人の1人からでも申し込めます。
本欄はプロモーションを含みます。掲載内容・条件は各サービスの公式サイトで最新のものをご確認ください。
この記事について
執筆:葉山 湊(はやま みなと)
自身の家族の実家じまいを経験し、そのときに「どこにも書かれていなかったこと」を出発点にこのサイトを立ち上げました。司法書士・税理士・宅地建物取引士などの資格は保有していません。制度や法令については、必ず一次情報(法務省・国税庁・裁判所)にあたって記事に反映しています。
本記事の主な出典は次のとおりです。
・共有物の使用・管理・変更:民法 第249条〜第252条
・持分の処分:民法 第206条
・共有物分割請求と裁判による分割:民法 第256条・第258条
・所在等不明共有者の持分の取得・譲渡:民法 第262条の2・第262条の3
・意思能力/居住用不動産の処分の許可:民法 第3条の2・第859条の3
・相続登記の申請義務:不動産登記法 第76条の2・第164条
・被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
・民法等の一部を改正する法律(2023年4月1日施行)の概要:法務省「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」
持分の買取価格に公的な統計はなく、本記事の数値は取引実務で言われている目安です。本記事の内容は2026年9月7日時点の公表情報にもとづきます。 法務・税務の判断は個別事情によって変わります。実行前に必ず専門家にご確認ください。

